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院長に聞く!動物病院の成長マネジメント 泉南動物病院

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院長に聞く!動物病院の成長マネジメント 泉南動物病院

『ベッツワンプレス 2014春号(Vol.38)』 掲載分

院長に聞く!動物病院の成長マネジメント

私たちを取り巻く社会環境は刻々と変化しています。今後予測されている人口の減少(少子高齢化社会)と犬、猫の飼育頭数の減少、高いレベルの動物医療を望む飼い主の増加、飼育環境の改善や適切な動物医療による長寿化など、地域の動物病院、獣医師、動物看護師にもこれらに対する多様な対応が必要になっています。
この「動物病院の成長マネジメント」シリーズでは、動物病院・院長先生へのインタビューを通して、実際に行っている取り組みや事例の紹介から、「動物病院」が一層発展するために必要なポイントについて考えてみたいと思います。

 

開業されたのは何年ですか?

1995年、私が30歳の時に開業しました。開業前の5年間、ダクタリ動物病院関西医療センターにお世話になり、当時は内弟子のように技術を学ぶというスタイルで、院長の山崎先生には診療技術だけでなく患者さんやスタッフに対する姿勢など、様々なことを学ばせてもらいました。
開業資金は母が住む実家を担保に1,200万円を借り入れし、20坪たらずの小さなテナント物件で、私と動物看護師の2人からスタートしました。

一番大変だったことは?

やはり、開業しても来院数が1人、2人という日が続いたことです。毎日、不安で半年間は下痢でした(笑)。休みの日には案内チラシを作って原付バイクで犬・猫の散歩をされている方に配って回ったりもしました。その当時のノートを見ると、6月くらいまで(開業して3ヵ月間)は少ないですね。1人しか来ない日もありましたが、7月頃から少しずつ増えてきました。「これで何とかやっていける」と手ごたえを感じたのは1年が経ってからです。

開業から5年で新しい病院を作られました。
最初から、計画を立てていたのですか?

勤務医としてお世話になった山崎先生の病院が実家の近くだったので、開院当初は山崎先生おひとりとスタッフという小さな病院から、どんどん大きくなっていく過程を見ていました。私が獣医師を目指した理由のひとつもそこにあります。開業する前から山崎先生のように、テナントではなく自分の土地で、自分の目指す動物医療を実現できる病院を作りたい、と考えていました。

念願の病院を建てられてからのことを
お聞かせください。
スタッフも増え規模も大きくなってくると
様々な問題が起こったりしませんでしたか?

自分で言うのもなんですが、開業してからは、休みも取らず寝る間も惜しんで仕事をしました。でも病院を作り移転したことが「ゴール」だと思ってしまったんですね。診察を勤務医に任せきりにしてサボってしまった時期がありました。本当にお客さんは正直で、その時は売り上げも見事に下がりました。スタッフも離れていってしまいました。怒鳴ればいうことを聞く、なんて今から思うととても傲慢だったと思います。それからですね。遊んでいる院長には誰もついては来てくれないことに気づき、皆で話し合うミーティングもきちんと行い、ガラス張りの経営システムを作っていきました。
ミーティングは、私と獣医師の責任者、動物看護師の責任者、受付の責任者の4人で話す「首脳会議」が月に1回。各部署、「受付」「動物看護師」のミーティングが月1回。あとは、獣医師、動物看護師、受付の責任者が月に2回ミーティングをして、それをまとめて私とミーティングをしています。
その他には、3ヵ月に1回、私と獣医師の責任者、事務担当者で経営会議。事務担当者は経理だけでなく、来院者数や診察、手術の内容等のデータ分析も担当しています。

受付に多くのスタッフを配置されていますが、
その理由は?

診察を待つ方よりも、診察後に受付が混んでしまってお待ちいただくことが結構多くありましたので、これはよくないな、と思ったからです。常時3名は受付に配置して来院の飼い主さんに対応できるようにしています。受付スタッフには、問診(初診以外の問診は口頭でヒアリング)、物品・DMの管理、毎日の必要な消耗品の発注、シャンプーの準備等を担当してもらっています。事務担当、動物看護師とそれぞれに役割を分担しています。
また、飼い主さんの待ち時間をもっと短縮できないかと考えて、「自動受付」のシステムも昨年4月に導入しました。診察以外、たとえばフードや薬をとりにだけ来られる飼い主さんも多くおられます。待ち時間の短縮だけではなく効率よく処方することでネット販売などに流れる顧客を防いでいます。

商品の発注や在庫管理は?

それらは全部事務が担当しています。毎日の消耗品等は受付でやっていますが、そのチェックは事務が担当しています。以前は業者さんから安いからと勧められるまま大量に購入して、そのまま期限切れで廃棄してしまったり、知らずに結構値段の高いところから仕入れたりすることも少なくありませんでした。事務職を置いてこまめに在庫管理するだけで、色々なことが見え、経費もずいぶん圧縮することができました。

「ガラス張りの経営」のことを もう少し詳しくお聞かせください

どれだけ売り上げがあり、どれだけ利益がありましたとか。結構そういうのって一般的な院長先生は嫌がると思いますが、私はスタッフに全部隠さずに公開しています。「皆で儲けて、皆で利益を分け合おうよ」「あなたたちのちょっとしたムダが自身の給料にも響いてくる」と日頃からスタッフ全員に話をしています。
事務の担当者が来院件数や初診、再診数、予防、診察や手術数の内容などデータをまとめた分析資料も全員で共有し経営会議の資料としています。そうしていることで売り上げが下がった時、スタッフからも「〇〇が足らないんじゃないか」、とか「〇〇なこともできるのでは」、といった色々な意見がでてきます。スタッフからそんな意見や提案が聞けることはとてもありがたく思っています。

スタッフとのコミュニケーションを良くする工夫は?

当たり前のことですが、この病院のこと、診療のこと、これからの将来のことなど、ちゃんと伝えるようにしないと伝わりません。「摩擦」が起こることを怖がって溜めてしまっていると、どんどん悪い方に転がっていきます。ですので、小さなほころびでも少しずつ治していくように気をつけています。
6~7年前からはスポーツ大会等の院内レクレーションも定期的に行っています。温泉でのリーダー研修や、お誕生日会といったイベントは、とても盛り上がって楽しいものですが、同時に私とスタッフとが仕事だけでなく色々な話をする機会にもなっています。

また外部コンサルタントの指導の下、人事考課制度をとり入れています。半年に一度、スタッフ一人一人と各部署のリーダーと私で三者面談を行い、半年前の目標をふり返り、その到達度に応じて次の半年後の目標を設定しています。これは大変な作業ですが普段できないような話がお互いでき、客観的に自分が評価されることで、仕事に対するモチベーションを保つことに大きく役立っています。

今、先生が取り組まれていることはどんなことですか?

飼い主さんのレベルを上げてあげること、でしょうか。私の病院の獣医師には、「飼い主が気付いていない悪いところを見つけることもワクチン代に全部含まれているんですよ」という話をしています。ワクチンが目的で来院された際には、身体検査をくまなく行い心臓に雑音がありますとか、小さな出来物ができていますよと言うだけでなく、歯石がついていれば除去して歯周病を防いだ方がいい、肥満であれば関節炎を予防するために減量しましょうというようなことで時間をかけて説明します。(※1)来院数がどんどん伸びているわけではありませんので、飼い主さん一人一人の意識を高い方へ変えていくことで、少しの変化でも気が付いたり、小さいことも治してあげたいと思ってもらえるような取り組みをしています。(※2)
診察中は「自分の愛犬や愛猫を診る」気持ちでお話を聞くようにするということでしょうか。そこは普段から心がけています。アンケートでも、飼い主が病院を選択する理由の一番は「自分の話を聞いてくれる」ことなんです。「病院が大きい」「設備が整っている」「医療技術が優れている」「先生の数が多い」といったことではないんですね。しっかり飼い主さんの話を聞くこと、これがすべてに優先すると考えています。
当院では獣医師や看護師だけではなく、受付でも予防注射の時期が遅れていたら、「予防注射、忘れていませんか?打ってくださいね」と伝えます。これは経営的な側面以外に、予防注射を打たなかったらどうなるか、という飼い主さんにとってとても大事なことを知ってもらうことなんです。

ただ売上を伸ばしたいというそれだけの気持ちで「フィラリアの予防をしてください」と言っても、飼い主さんには伝わりません。私の家ではフィラリア・ノミ・ダニの予防は絶対にしますよと、だからあなたも愛犬・愛猫のためにしてください、そうしないと大変なことになってしまいますよっていうことを本気で飼い主が愛するペットたちのために言えるのか、そうではなくて「売上」のことだけで言うのかで、飼い主さんが受ける印象は全然違いますよね。(※3)
スタッフ全員が作業を分担して飼い主さん向けのニュースレターの発行や、町の公民館を借りて飼い主さん向けのセミナーも1年に2回開催しています。多い時は100人くらい聞きに来られますよ。これも飼い主さんのレベルや意識を高めることが目的で、次は10回目の開催になります。(※4)

将来の目標は?

来ていただいた人が思っていること、願っていることを全てかなえられる病院にしたいと思っています。今の一次診療だけじゃなくて、ある程度の二次診療もできる病院。例えば、今はCTとかMRIとかはありませんが、理想を言えば、そこの病院に来れば、しつけや飼い方もわかれば予防注射もでき、一般的な診療も二次的な診療も受け入れるというのが本当の理想だと思います。それを考えながら毎日仕事をしています。実現しない夢かもしれませんが、そう思っていないと面白くありませんからね。
また、色々と難しい面もありますが、50代、60代になっても安心して、犬や猫と暮らせるように支援することも、これからの動物病院に求められる役割だと思っています。
これは近い将来の目標ですが、今年の7月12日(土)、13日(日)の2日間、ホテルニューオータニ大阪とIMPホールで開催される、第5回WJVF大会を成功させることです。この大会は公益社団法人日本動物病院福祉協会(JAHA)と一般社団法人日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)が協働してより良質な家庭動物医療を提供するという目的で行われている大会で、今回、私はJBVPの実行委員長として準備を進めています。獣医師や動物看護師、動物医療をサポートする関連業界、そして動物医療を受ける飼い主さんたちにもお集まり頂いて、ともに動物との幸せな生活を学び考える場としたいと思っています。

これから動物病院、動物医療の業界は
どのようになっていくとお考えですか?

かなり厳しくなってくると覚悟しています。以前、獣医師、動物病院にとって開業すれば儲かる良い時代がありました。でも、今は違います。動物医療業界、犬猫を取り巻く環境、飼い主さんの意識、全てが変化しました。これまでのことをこれまで通りにやっていくだけでは、これから成長していくことはとても困難です。

開業して5年くらい経って、大学の研究室の恩師へ報告に行った時のことです。
「病院も軌道にのり、今、3人雇っています。」てっきり褒めてもらえると思っていると「それは社会貢献ですね」と言われました。意味がよく分からなかったので、理由を聞いてみると、「横井君はそれだけの人の雇用を産んでいるんです。病院で働く人がそれぞれ税金払っているということは地域にとっての社会貢献なんですよ。」それから私の考え方が変わりました。
どれだけ儲けているか、雇っているのかが偉くなった評価ではなく、地域社会のためにどれだけ役に立っているかだと思うと、もう少し大きくしたいという思いが少しずつ出て、それが今のモチベーションになっています。
自分の病院、スタッフも当然大切なのですが、動物医療業界全体を伸ばしていこうと獣医師、動物医療関係者一人一人が思わないと、業界も良くなっていかないと思います。そのためにも、業界全体のレベルを向上させて、動物医療の「すそ野を広げる」ように努力していきたいと思います。

経営と会計のワンポイント解説

収入の方程式をご存知ですか?

実は簡単なようでこれは経営においてとても大切です。泉南病院の経営をこの視点でみてみましょう。

: 主訴だけに対応することから、その原因を探ることへ、さらに予防に導くこと、そんな啓発活動への取り組みが単価アップにつながっています。※1※2参照)
: 人口の減少(少子高齢化社会)、犬猫の飼育頭数の減少が進む社会で動物病院のお客さまも減少するのがドラッカーがいう「既におこった未来」です。泉南動物病院では予防、啓発に積極的に取り組んでいる結果、この件数減少を食い止めているといえるでしょう。また泉南病院では予防接種を始め、予防薬投与、検査実施、Cast、Spay、歯石除去などの患者データをきめ細かくとっています。さらにそのデータを会議でスタッフと共有し、スタッフの日々の意識を高めた結果といえます。(※3参照)
: 飼い主さんの意識やレベルを高める取り組みは結果としてリピーター創出となり、リピート率向上になっています(※4参照)
 

経営と会計は目的ではなく手段です。目的は動物と飼い主さんがよくなるためです。また、自分の病院、スタッフがよくなるためです。そのために経営を伸ばし、また経営を伸ばすために会計的視点を活用していただきたいと思います。

角田 祥子

最後に

一般社団法人ペットフード協会の調査では、2008年をピークに犬の飼育頭数は減少傾向にあります。「子犬」の来院は以前に比べるとずいぶんと少なくなった、と感じておられる動物病院も多いのではないかと思います。社会環境の変化にも対応しながら、地域の動物病院様が今後も発展していくために、「動物病院の成長マネジメント」シリーズでは、動物病院で実際に行われている取り組みや事例を紹介していきます。ぜひ、先生方のヒントやきっかけにしていただければと思います。