大阪ぺピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師 坂上 緑
病院に電話をかけてきて、長々と獣医師に相談をされる飼い主さんは多いと聞いています。夜間病院など、救急病院の回線であっても、同じような方はいらっしゃるようです。「飼い主さん」という人達には、「動物病院は電話相談OK」の認識が浸透しているのだなあとつくづく感じる次第です。
これが、人間の病院であれば、救急でなくともよほどのことがない限り、医師が電話相談に応じることはあまり考えられません。飼い主さん達も、人間の病院であれば、「院長先生を出してください」等とはおっしゃらないのではないのでしょうか。
状況によって応対を変えない
電話相談で、動物の状態が改善することもあるでしょうから、飼い主さんにしてみれば、かけた電話に獣医師の先生が出られるのは、大変ありがたいことですが、もしも話が長引いてしまうと、待合室で待っている飼い主さんの待ち時間がそれだけ長くなってしまいますね。だとしたら、顧客に正しくサービスが分配できているとは言えないでしょう
待合室に飼い主さんがいない時はゆっくり話す…という先生もいらっしゃるでしょうが、待合室の様子が電話の相手に見えているわけではありませんから、こちらの事情を知らない飼い主さんからすれば、「ムラのある応対」という印象をもたれてしまう可能性もあります。このムラが、人(先生)によって違うとか、こないだはもっと親切に答えてくれたのに…等という受け止められ方をしてしまえば、せっかくの好意がマイナスになってしまうことを残念に思います。
すぐに獣医師に代わる応対をやめる
私にはいつも、「電話相談をする困った飼い主さん」をどうしたらいいかという質問が寄せられますが、獣医師が出て、「相談」に応じて終る電話が頻繁にあるなら、「困った飼い主さん」を作っているのは、病院の方であることが多いようです。「看護士は勝手に自分で判断して電話で飼い主さんに答えてはいけません。獣医師に聞いてください」という教育はもちろん正論でしょう。医療に関することは獣医師でなければ答えられないのですから、看護士が獣医師へ取次ぐ電話が多いのは仕方がないと思います。
しかし、これまでの看護士・スタッフ教育で大雑把にこういう伝え方だけをしてしまったことにより、「何でも獣医師にすぐに聞く看護士」が多く出現し、電話をかけたら、「動物病院では看護士が獣医師に取り次いで当たり前、獣医師が出てこないのは不親切」という印象を飼い主さんが持ってしまう状況を業界全体で起こしているのではないかと私は感じています。
動物病院に要求をすればいつも院長先生、または獣医師の先生が出てこられて応対してくれるという体験をしたら、もちろん飼い主さんの中にはまた電話をかけてきて「相談」だけを繰り返すことになる人も出てくるのではないのでしょうか。
獣医師が出なくても不親切に感じさせないために
もちろん、こちらの考え方や姿勢を変えたからといって、飼い主さんが突然、電話相談や、最初から院長先生を指名するのを止めてくれるわけではありませんし、看護士が「獣医師は電話には出ないことになりました」等と突然言えるわけもありませんね。
これまで獣医師が担っていた多くの説明業務、例えば、ワクチン、避妊や去勢、療法食、トレーニング等について、看護士に移行させつつありますが、電話応対も同じ考え方でよいと思います。
今後、獣医師が出るべき電話なのかどうかを判断することのできるスタッフ教育と、院内での役割分担、伝達、コミュニケーションシステムの構築に動物病院業界全体で取り組み、飼い主さんに不親切になったと感じさせることなく移行して行くとよいと思います。
そのためには、これからは少なくとも緊急度を判断するための応対力を電話に出るスタッフに身につけさせなければなりません。飼い主さんからの情報を正確に、十分に収集ところまでは看護士、もしくは受付者が応対し、内容により優先順位をつけ、こちらの事情も伝えて、コールバックの時間設定までを取り付けて、獣医師に伝達することができる、もしくは、その場で来院を勧めることができるところまで、電話応対のスキルをアップすることにより、獣医師が本来の仕事に専念できる環境が整えられるでしょう。
看護士が情報を集めて獣医師へ伝える
例えば最初から院長先生を名指しされた場合でも、すぐに取り次ぎに行かず、このような応対が出来ると、獣医師も自分の都合に合わせて、その後の処理もしやすくなると思います。
看護士さんが電話の取次ぎのため、診察室に入っても、獣医師の先生が忙しくて、こちらを見てくれない、電話というとご機嫌が悪くなる…等という話も聞きます。(笑) お気持ちは大変よくわかります。とても集中力の必要な仕事をされているのですから。私も原稿を書くため、パソコンに向かっている時に家族に話しかけられると、ついいい加減に返事をしたり、イライラしたりしてしまいますから。私の場合、思考作業は自宅でしていますので、人間関係にそれほど問題も起こりませんが、職場となるとそうはいかないでしょう。
看護士が電話応対の考え方、スキルを持てば、治療中に突然飛び込んでくる「電話をかけてくる飼い主さん」を、その時点でその必要がないのに獣医師に取り次ぐことなく、多くの情報を集めて伝言し、獣医師の電話応対時間を短縮できます。「電話なら相談は無料」という考え方の飼い主さんを減らすことにも繋がると思います。
ですが、どのようにするのかという具体的な応対のノウハウを経営者である院長先生が知ってご自身の病院で取捨選択し、どの方法を取り入れるかをお決めにならなければ実施していくことはできないと思います。なぜなら、看護士は治療に限らず、どんなことでも獣医師の指示で動くからです。
著者紹介
- 坂上 緑(さかがみ みどり)
- 大阪ペピイ動物看護専門学校「マナーとコミュニケーション」講師。
フリーアナウンサーとして活動しながら、国際博覧会、専門教育機関、店舗、企業で接客,セルフプレゼンテーションの研修講師を務める。大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」顧問。第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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