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「待つ」ストレスの軽減

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「待つ」ストレスの軽減

『ベッツワンプレス 2006春号(Vol.7)』掲載分

「待つ」ストレスの軽減
大阪ぺピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師 坂上 緑

動物病院へ対する飼い主の不満によく挙げられるのは、「待ち時間が長い」ことです。先生の病院では通常、どれくらいの待ち時間が出ているでしょうか。来た順番に受付…であれば、顧客心理としては通常、椅子に座っていても「待つ」のは5分が限度です。病院だと、15分くらいでしょうか。それ以上かかるなら、待ち時間の目処を知りたいと誰もが思うものです。

受付で「あと、どれくらいですか?」と聞かれることはありませんか?時には、待ちきれず、「もういいです」とお帰りになってしまう飼い主さんがいらっしゃいませんか?もし、そういう現象が起こったことがあるとして、その後、何か具体的な対策をたてられたでしょうか?

飼い主さんが病院の外にまであふれ、何時間も待っていらっしゃる病院もあります。それはある意味、世間に向けて、その病院の価値を表すプレゼンテーションの役割を果たします。

再三申し上げてきたとおり、獣医療について素人の飼い主に、獣医師の技術に対する判断力はありません。「患者があふれている」という現象を見て、その病院の価値を判断し、並ぶ飼い主さんもいらっしゃるでしょう。しかし、通院を頻繁に余儀なくされる状況が続くと、よほど日常生活に時間的余裕のある人を除き、「待つ」ということに対する忍耐力が、何年も継続することは難しいでしょう。その病院のファンでありながらも、「待ち時間が長いから」という理由で、その病院への通院を断念する飼い主さんが出てしまうのは大変残念なことだと思います。

来院数はその日によって異なり、受付システムを変えるのは、なかなか難しいというのが現状でしょう。「予約制」の導入は、病院側にリスクがありますね。予約時に飼い主さんが現れなければその時間に穴が空き、人件費の無駄になってしまいますから。また、その時間通りに診察が終了するのか、見極めがつかないという現実もあります。それにより、「予約したのに…」と一段と飼い主さんの怒りを増幅させてしまうこともあるでしょうし、獣医師の数が少なければ、予約どおり診察を進められないということもあるでしょう。

しかし、待ち時間は長いほど、飼い主さんが不快を感じてしまうというのもお分かりかと思います。30分以上待たされると、待合室には不快感情の人が複数人、常にいる状態ですから、クレームも出やすくなります。不快感情の人と対応する人は緊張感を増しますし、かなり高い接客技術を要しますので、スタッフの心理的疲労度が高くなるでしょう。また、飼い主さんは不快感情とともに診察室に入ってくることにもなります。待ち時間に比べて、診察時間を短く感じてしまい、納得感に欠けるという心理現象も引き起こしやすいでしょう。それは更に「診察費が高い」と思わせてしまうことにも繋がります。

病院にとっては、忙しいときほど、診察時間を短くしなくてはなりませんから、飼い主、獣医師、看護士…3者のストレス度が高くなってしまう悪循環ではないでしょうか。少しでも飼い主さんが「待つ」ストレスを軽減する方法を考えてみましょう。

待合室の椅子に荷物を放置させない

他の飼い主さんの荷物が椅子の上に放置されているがために、自分が「立って待つ」はめになるのは、とても不快なものです。診察室に入るときには、荷物ごと持ってお入りいただくように、スタッフが案内したり、手伝ったりするようにご指導いただくとともに、待合室、診察室での荷物の置き場について、ご検討いただけたらと思います。

美容室のように、上着やコート等は受付カウンターでお預かりするクロークサービスをしたり、キャリーなどはまとめて置く棚を待合室に設置したりなどすることによって、問題が解決されるとともに、病院の心遣いがとても効果的に伝わるのではないかと思います。

「あと何人」がわかるだけでも違う

最も簡単な改善方法は、受付カウンターで、飼い主さんへ「あと何人待てばよいか」を明確にすることです。飲食業でよくやっているように、来院順に飼い主さんご自身に記入していただく用紙を受付に置いておきましょう。そして、お呼びした方には、○印やマーカーで色を付けていくとよいでしょう。(名前の上を線で消しこまないように)複数の獣医師がいるなら、予めその用紙に、「本日獣医師は○名で診察しております」とか、また、「緊急の患者さんがご来院の際には、順番をお譲りくださいますようお願いいたします」等、必要なら、記入しておくとよいでしょう。

「あと、どれくらいかかるか」は明確に答えられないでしょうから、これくらいの情報を事前に知らせておけば、飼い主は、このままここに留まって待つか、散歩に出かけていくか、家に帰って出直すか…など、来院した時点で自由に判断できることになるのではないでしょうか。待っている人数を数えて、「ここに留まって待つ」判断をしたのに、散歩や、一度出直してきた飼い主が自分の順番の前にいることを知って、落胆することもなくなります。

新しい方法を導入したときには、受付スタッフが受付のたびにチェックして、声をかけるなど、最初は手間もかかりますが、ここをクリアすることによって、飼い主、病院の双方のストレスがずいぶん少なくなることを実感していただけると思います。

受付カウンターには、記入していただく案内板を立てて置くとよいでしょう。「診察券さえ出さない人も多いのに、全員に名前を書かせることは難しい」ということも聞きますが、以前から申し上げているように、「診察券を出さないでもOK」の体験を飼い主さんにさせてきたからこそ、そうなってしまったわけで、動物病院では、応対が難しい状況をどんどん作り出してしまっている現状があります。

「人間の記憶でカルテを出す」などの処理は感心しません。診察券を持ってこなかった方には仮診察券を発行して、飼い主さんにお名前を書いていただくなど、「診察券が要るのだな」と認識してもらう処理をお勧めします。ご自身で書いていただくほうが、飼い主さんも認識が高まります。

予約制の導入

待ち時間が長い病院で、予約できる日や時間帯を別枠で決め、来院順の受付との折衷システムを取り入れているところがあります。予約制を取り入れることをお考えなら、最初に導入していくにはよい方法だと思います。

先生の病院で治療を受けたくても、個人生活の時間の制限によって、通院をあきらめざるを得なくなった飼い主さんには、大変ありがたいからです。予防のためだけの通院を他の病院へ変更する…ということもしなくてもよくなります。自分の病院の本当のファンが誰かわかるでしょう。

ただ、システムを変える時は、飼い主さんへの事前周知が成功の鍵です。ホームページの更新はもちろん、飼い主さんへ一斉にDMを出す時にシステム変更の情報もあわせてお知らせし、ご来院の方へは、院内掲示、口頭による伝達、精算時に案内パンフレットを渡す…等、複数の方法を同時に行う必要があります。

better案を実行しているのに、この方法を取りいれたら、「それは知らなかった」というクレームが出たから止めて、従来のやり方に戻しました…という事例を聞くと、とても残念に思います。それはコミュニケーション不足によるトラブルであって、その方法そのものが悪かったわけでは決してないのですから。

著者紹介

坂上緑
坂上 緑(さかがみ みどり)
大阪ペピイ動物看護専門学校「マナーとコミュニケーション」講師。
フリーアナウンサーとして活動しながら、国際博覧会、専門教育機関、店舗、企業で接客、セルフプレゼンテーションの研修講師を務める。大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」顧問。第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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