主要な改正点
2012年(平成24年)9月5日、改正された動物愛護管理法が公布されました。動物愛護管理法は、1973年(昭和48年)に「動物の保護及び管理に関する法律」として制定され、その後2回の改正が行われ、「愛護」と「管理」の両面を柱とした制度として名称も「動物の愛護及び管理に関する法律」と変わりました。
今回は3回目の改正ですが、2回目の改正は2005年(平成17年)に行われ、この時の改正法において「政府はこの法律の施行後5年を目処として、新法の施行の状況についての検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」という規定が設けられました。この規定を受け、環境省が設置する中央環境審議会の中に「動物愛護管理のあり方検討小委員会」が設けられ、2010年(平成22年)8月から25回にわたってヒアリングと議論が活発に行われました。(※下の表・見直しにおいての主要な課題)
この「動物管理のあり方検討小委員会」では検討課題に沿っての関係者からのヒアリングや問題点、課題などが議論され、またパブリックコメントという形での国民の意見を求める機会も作られました。パブリックコメントも前半の主に動物取扱業に関するものは約12万件、後半の実験動物や虐待の防止等に関するものは約5万件もの意見が寄せられ、動物愛護管理法に対する関心の高さが示されました。
小委員で討議された内容やパブリックコメントとして寄せられた意見を踏まえて、2011年(平成23年)12月21日に「動物の愛護管理のあり方報告書」がとりまとめられました。実際の改正法は、この報告書を踏まえ、与野党各党において検討が行われ、2012年(平成24年)8月、改正法案が国会に提出、8月29日の参議院本会議において、全会一致で可決成立しました。
■ 制度の見直しにおいて見直しの是非(必要性)も含め小委員会で検討された主要な課題
(1)動物取扱業の適正化
- ・深夜の生体販売規制(生体の深夜展示や長時間の連続展示規制)
- ・移動販売(特定の店舗を持たない販売形態の規制)
- ・インターネット販売(販売時の対面説明及び現物確認の義務付け)
- ・犬猫幼齢動物の販売日齢(親から離す日齢制限の具体的数値規制)
- ・繁殖制限措置(繁殖年齢や回数の制限等の具体的数値規制)
- ・飼養施設(犬猫のケージの大きさ等の具体的数値規制)
- ・業種追加の検討(オークション市場、動物の死体火葬・埋葬業者、両生類・魚類販売業者、実験動物繁殖業者、老犬老猫ホーム、動物愛護団体等の追加)
- ・業種緩和の検討(動物園水族館の緩和)
- ・許可制の検討(登録制から許可制に強化する必要性)
- ・関連法令違反時の扱い(動物関連法令に違反した際の登録拒否等)
- ・登録取消強化(登録取消を現状より容易にできる取消制度の強化)
- ・動物取扱責任者研修の緩和(回数や動物園水族館・動物病院の扱い)
- ・販売時説明義務の緩和(犬猫以外の小動物等での説明義務事項の緩和)
(2)虐待の防止
- ・虐待の定義の明確化(法44条への具体的例(外傷が生じる暴行等)追記)
- ・司法警察権(自治体職員の立入・捜査権限、動物の一時保護規制)
- ・関係機関との連携(動物愛護部局、警察、動物愛護推進員等の連携)
- ・闘犬等(闘犬、闘鶏、闘牛等、動物同士を闘わせることに対する規制)
(3)多頭飼育の適正化
- ・届出制等の検討(「犬○頭以上は届出」等の制度、化製場法との整理)
- ・適正飼養(適正飼養していない場合の立入調査、勧告・命令規定等)
(4)自治体等の収容施設
- ・収容施設等の基準(自治体の収容施設、飼養方法、公開基準等の基準化)
- ・犬猫の殺処分方法の検討(苦痛のない安楽殺処分等の基準化)
- ・犬猫の引取りルール(都道府県等の引取り義務の緩和)
(5)特定動物
- ・対象動物の見直し(選定基準・動物種の見直し、ピットブル等の危険犬種や特定動物同士の交雑種指定等)
- ・特定動物移動時の手続き(一部簡素化)
(6)実験動物の福祉
- ・届出制等の導入の検討(実験施設の届出等の規制導入)
- ・3Rの推進(代替法、使用数の削減、苦痛の軽減の実効性確保)
(7)産業動物の福祉
- ・5つの自由(法の基本原則への明記、産業動物飼養等基準の改正等)
(8)罰則の引き上げ
- ・現行規制の強化(特定外来生物法や器物損壊罪と同じレベルまで引き上げ)
(9)その他
- ・犬猫のマイクロチップの義務化
- ・犬猫の不妊去勢の義務化
- ・飼い主のいない猫の繁殖制限
- ・学校飼育動物の適正飼養の規定
- ・災害対応(動物愛護推進計画への追加など)
今回の主な改正点には、動物取扱業に関わるものが多く盛り込まれており、その他では多頭飼育の適正化、特定動物、犬猫の引取り、災害対応、罰則の強化などがあります。各事項の説明を以下に記します。
◇動物取扱業、特に犬猫等の繁殖や販売に関する規制の新設
これまで動物取扱業として登録されてきた事業者は、今回の改正により、「第一種動物取扱業」となります。
そしてその中の犬猫の繁殖、販売については特に多くの新設事項が盛り込まれました。
・幼齢動物の販売日齢について
犬猫を繁殖する業者に対して、生後56日を経た犬猫でなければ、販売や販売のための引き渡し又は展示行為が禁止されることになりました。ただし、経過措置として法律の施行から3年間は生後45日、その後別に法律で定める日までの間は生後49日を経過しない犬猫について、販売、展示等が禁止され、この期間を生後56日までにする時期については、法施行後5年以内に、科学的知見等を収集検討し、速やかに定めることとなっています。この販売日齢については、社会化期を迎える幼齢期の子犬や子猫が、十分に母犬や母猫、兄弟とふれあう期間を確保する目的があります。
・幼齢動物の健康と安全の確保
犬猫等の販売業者に対して、幼齢な犬猫の健康や安全を守るための体制整備や、販売が困難となった犬猫等の扱いを記した「犬猫等健康安全計画」の提出や所有している犬猫等の状況について帳簿に記載して保存し、所有状況について都道府県へ定期的に報告することなども義務づけられました。犬猫の健康管理や安全を確保するために、獣医師等と適切な連携の確保を図らなければならないとされています。
・販売時の現物確認、対面説明の義務付け
今回の改正法では販売する動物の確認とその動物の特性や飼育方法、健康に関する注意等の説明を対面できちんと購入者にしなければならないとされました。規制される動物は、「犬、猫その他の環境省令で定める動物」となっており、環境省で今後検討を行い、省令で定めることとなっています。
インターネットを利用した生体販売も例外ではなく、購入者に対する購入希望の動物の確認、対面での説明が必要となりました。
◇第二種動物取扱業の創設
営利を目的としない飼養施設での一定数以上の動物の飼養や譲渡、展示を行う場合は、「第二種動物取扱業」として都道府県への届出義務が課せられました。動物愛護団体のシェルター活動を有して譲渡活動等を行う愛護団体や、公園等における動物展示等が対象と想定されていますが、届出が必要となる施設や飼養頭数等については、今後環境省で検討を行い、省令で定められることになります。
◇多頭飼育の適正化
都道府県知事は犬猫等の多頭飼育者に対して、条例によりその飼養状況等について届出させることができることが明記されました。勧告・命令の対象となる生活上の支障の内容が明確化され、多頭飼育によって生じる生活環境の騒音や悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生といった記述が追加されています。
さらに、適正に飼養されていない多頭飼育によって、動物が衰弱したり虐待を受けたりするおそれがある場合にも、都道府県知事はその飼養者に対して改善勧告や命令をすることができることとされました。
◇犬及び猫の引取りについて
自治体は犬や猫の所有者から引取りを求められたとき、引き取らなければなりませんが、今回の改正では、動物取扱業者(犬猫販売業者)から引取りを求められた場合等、終生飼養の責務に反する場合には引取りを拒否できるようになりました。
また、自治体は引き取った犬猫をできるだけ返還するか新しい飼い主へ譲渡するよう努めることが明文化されました。
TOPIC 犬及び猫の引取り
第35 条
4 都道府県知事等は、第一項本文(前項において準用する場合を含む。次項、第七項及び第八項において同じ。)の規定により引取りを行つた犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、所有者がいると推測されるものについてはその所有者を発見し、当該所有者に返還するよう努めるとともに、所有者がいないと推測されるもの、所有者から引取りを求められたもの又は所有者の発見ができないものについてはその飼養を希望する者を募集し、当該希望する者に譲り渡すよう努めるものとする。
上のグラフのように犬や猫の殺処分頭数は年々減少傾向にありますが、遺棄の防止、飼い主のいない犬猫を増やさない為の不妊手術、個体識別表(鑑札、マイクロチップ、迷子札等)の装着、終生飼養といった飼い主への適正な飼育の啓発や意識の向上をこれまで以上に浸透させる必要があります。
◇災害対応
2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災により、被災地域の住民だけでなくペット等の動物も大きな被害を受けました。こうした状況を受け、今回の改正にあたっては災害時の対応についても、主に2つの規定が盛り込まれました。
ひとつには、都道府県が定める「動物愛護管理推進計画」の中に災害時における動物の適正な飼養及び保管に関する施策が追加されました。また、動物愛護推進員の活動として、災害時における国や都道府県が実施する動物の避難、保護活動への協力も付け加えられました。
動物愛護推進員制度は、平成11年の改正法により設けられた行政と協力し、地域での適正飼養の啓発活動等を担うボランティア制度です。
TOPIC 動物愛護推進員
第38条
5 災害時において、国又は都道府県等が行う犬、 猫等の動物の避難、保護等に関する施策に必要な協力をすること。
動物愛護推進員の役割がこのように追加されました。 地域での飼い主や動物に関しての「共助」および「公助」に参画、協力することが求められています。
◇虐待の定義と罰則の強化
今回の改正法では、愛護動物の殺傷や虐待、無登録での動物取扱業の営業、無許可での特定動物の飼養に対するもの等について、従来の罰則が全体的に強化されました。また、これまで罰則の対象となる虐待については、「みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる」という記述でしたが、改正法では、酷使、拘束、衰弱、疾病やケガの放置、不衛生な環境での飼養等の具体的な事例が追加されました。
罰則の主な変更点
この他新しく設けられた罰則としては、
- ・適正な飼育を行っていない多頭飼育者への命令違反
⇒ 50万円以下の罰金
- ・動物の死亡について、第一種取扱業者が検案書または死亡診断書の提出を命じられたのにもかかわらず、それらを提出しなかった場合の命令違反
⇒ 30万円以下の罰金
- ・第二種動物取扱業者の無届けや虚偽の報告等の命令違反
⇒ 30万円以下の罰金
- 等があります。
TOPIC 獣医師による通報
第41条
2 獣医師は、その業務を行うに当たり、みだりに殺されたと思われる動物の死体又はみだりに傷つけられ、若しくは虐待を受けたと思われる動物を発見したときは、都道府県知事その他の関係機関に通報するよう努めなければならない。
動物病院の獣医師にも動物の虐待や遺棄を防止する役割が明記されました。
◇今後の予定
改正法の施行は公布後1年以内とされています。現在、環境省では実際の運用に向けて政省令等の改正や基準等の設定についての協議がすすめられており、そのスケジュールも「中央環境審議会動物愛護部会」で示されています。
動物愛護管理法が社会の中で認知され、多くの飼い主の方に理解してもらうために、地域の動物病院、動物医療に従事する皆様の協力をお願いします。
記事・図版提供:環境省 自然環境局
総務課 動物愛護管理室