動物医療関係者のための通販サイト 【ペピイベット】PEPPYvet(旧 ベッツワン)

カテゴリから探す

カテゴリから探す

新規会員登録特典として今なら
1,000ポイントプレゼント中!

はじめての方へ

  1. 送料無料まであと ¥5,000(税込)

待ち時間を軽減する努力の意味

印刷用PDFを表示

待ち時間を軽減する努力の意味

『ベッツワンプレス2010秋号(Vol.24)』 掲載分

イメージ

待ち時間の軽減
「待ち時間について不満を言う飼い主様に対する応対をどうすればよいか」
「お待たせしている間の対応はどうすればよいか」という質問がよく出ます。この質問をするのはほとんど看護師です。
ストレスを持った複数の飼い主様が待つ待合室管理をするのはほとんど、看護師だからでしょう。

イメージ

看護師の立場

多くの飼い主様が治療以外のことについて、不満をぶつけるのは看護師であり、獣医師ではありません。そして看護師は、飼い主様の不満を心に納めて院内の人間関係の軋轢に配慮する…というのが、よくあるパターンです。たとえ、○○先生の診察はもう少しスピードアップしてもらいたいなと思っていても、それが○○先生に看護師から伝えられることは少ないようです。スピードアップしてほしいことの中身は、診察そのものでだけではなくて、「飼い主さんとの会話」時には「雑談」であることも多いのです。その現象は看護師から見れば、獣医師は待合室のことに対する意識が足りないということになってしまうこともあります。

そのようなことが「伝えられる」職場環境が整っていなければ、顧客の不満が出た時、「先生の代りに看護師が謝る」という対処しかできません。待ち人数を知らせ、車の中で待っていただき、順番が来たら呼びに行く、散歩に出かけたり、一度家に帰る等の人には携帯で呼び出すなどそれなりに対処されているように思われますが、それ以上のことは看護師には難しく、文句が出ないことを祈る…というような状況が多いことも否めません。

しかし対処とは、現象に対する処理であり、根本的な解決とはまったく別のことです。「待っている間の応対」より先に考えなければならないのは「システム」の変更、工夫です。応対をどう工夫しても、1時間以上待つという状況にストレスを感じさせないというのは、極めて難しいことだからです。待合室管理をするスタッフ(多くは看護師)だけの努力で解決する問題ではありません。

システム改善後の現実

システム面の改善も多くの病院が取り組んでおり、待ち時間を回避するために予約制の導入も増えています。しかしその病院で「予約している飼い主様を待たせてしまう」という現象が起これば、飼い主様の不快は倍増してしまいます。時間がずれて行くほどに待合室は、飼い主様の不快オーラが立ち込めてしまうでしょう。「予約の時間通りに診察が進まない」という現実を体験し、複数の獣医師がいれば直接来院と予約制を併用する病院も増えてきました。飼い主様によって予約の有無があるために受付業務は複雑になりますが、これは受付スタッフの努力でカバーできます。毎日併用が難しいならば、予約の日あるいは曜日を限定するとか、予約できる時間帯を限定する等の方法もあります。

対処する方法はいくつかあるのです。しかし、最も重要なことは、「待ち時間を減らしたい理由」です。「長く待たせると飼い主から文句が出るから」つまり「文句を言われた時の自分の不快」を避けたいからなのか、「お待たせして、その人の大事な時間を奪いたくない」からなのか、どちらでしょうか?そこまで突き詰めて考えたことはないかもしれませんが、実はそこが一番大事なポイントです。

動機が何なのかによって、同じ現象に対する言動の選択は全く違うからです。「文句を言われた時の自分の不快を避ける」という動機により対処法を考える人は、どのような場面でも当然、同じ不快を避けようとします。例えば看護師であれば「飼い主様の不快」と「獣医師の不快」を、従業員という立場から言えば「飼い主の不快」と「院長の不快」の双方を避けようとする言動しか選択できなくなるのです。

だから待ちが発生し、飼い主様が不快感を表したことの現実は全スタッフに周知されておらず、肝心の「飼い主様をお待たせしない」ための解決案は「実施」という点において、とても曖昧になっているところがあります。だから個々に努力はするけれど、動物病院が長い間この問題を解決できない原因を作っているのだと思います。

病院スタッフ全員にホスピタリティマインドが軸にあれば、「看護師が獣医師には言いづらい」こと、など起こらないはずです。「今、飼い主様の待ち時間が長くなっている現状」を看護師は獣医師に伝えていいのです。組織で働くということは、そこに所属する人たちが全員で顧客(飼い主様)に満足していただくことを最優先に力を合わせ、協力するということなのですから。全員が「飼い主様の時間を大切にする」ことは、自分の提供する仕事の価値を高めることであるという認識があれば、例えば今、40分もの待ちが出ているという事実さえ伝えれば、それが問題と感じた人達が、一斉にそれを改善する努力を始めるはずなのです。

獣医師の先生にお伝えしたいこと

獣医師は看護師の報告を受けてそれに応える努力をしましょう。「自分の担当は診察で、待合室管理はあなたたちの仕事でしょう」というのを「セクショナリズム」と言います。飼い主様は、診察室に入った途端に、待合室でのことは「なかったこと」にするわけではありません。待ち時間が長ければ長いほど、不満を持って診察を受けることになります。不満を持っている人には、先生の説明は心理的に前向きに伝わりにくいのです。

自分が関わらない部署のことには関知しなくてもいいという意識でいると「獣医師として動物病院で診察するための応対スキル」は向上しません。できるだけ短時間で自分の技術を動物に施し、飼い主様の納得と満足を得られる応対と説明のスキルを身につけるということを意識して診察に当たりましょう。診療以外のことについての看護師からの報告を、感謝して受け取ることができるようになったら、飼い主から発信された情報がもっと多く獣医師に伝えられるようになります。

看護師からの報告には獣医師が「診察が速く、うまくなる」ヒントが本当にたくさん含まれているということです。診察室に入って来られた飼い主さんに「お待たせいたしました」と言っていますという先生も多いでしょうが、実際に、どれ位待っていたかについては興味を持っているでしょうか? 「お待たせいたしました」には「次はこんなにお待たせしないように努力します」という意味が含まれているのです。

イメージ

飼い主様から文句が出ないように、看護師が応対をうまくするよう獣医師が希望するだけでは解決しません。だから、獣医師はその後、改善案を自ら考え、提案し合い、全員で実施していけばホスピタリティマインドが軸にある組織になっていくのです。そのような組織に所属することが専門職としての自分のスキルを格段にアップさせることになるのです。

看護師さんにお伝えしたいこと

看護師が獣医師の先生のご機嫌が悪くなることを恐れ続けている限り、その先生は「獣医師として動物病院で診察するための応対スキル」は向上しないのです。「治療は獣医師の判断で行うものなので、自分は口を出すべきではない」のは当然ですが、動物の身体的状態だけではなく飼い主様の心理的状態も伝えなければ、病院全体が「小動物診療の総合力」を伸ばすことができません。受付で飼い主様の来院時間と呼び出し案内時間を記録し、日々どれくらいの待ちが出ているのか、データを取り、それを報告するくらいの努力をしましょう。

イメージ

獣医師が診察時間の短縮について、意識化しないままであれば、気を使う日々が重なり、看護師にはとてもストレスになります。つまり「怒られるのは私たちばっかり」ということになってしまいます。そういう気持ちで、獣医師のサポートをしてうまくいくでしょうか?また、自分自身が仕事にやり甲斐を感じることができるでしょうか?診療補助は確かに看護師の仕事です。

しかし、だからと言って、全ての業務が指示待ち、補助でいいということではないでしょう。診断に責任を負わねばならない獣医師が意識を症例に集中し、待合室のことに意識が向かないのは自然なことです。だから現状報告が必要なのです。待ちすぎて飼い主様のご機嫌が悪い、動物が辛そう…そう感じているならば、自分はどうすればよいかだけではなくて、誰に何をどのように伝えればよいのかを考えましょう。

著者紹介

坂上緑
動物病院接客コンサルタント
坂上 緑(さかがみ みどり)
●動物病院ホスピタリティマネジメント研究会代表
●大阪ペピイ動物看護専門学校非常勤講師
●「マナーとコミュニケーション」「受付業務」等、動物病院に特化した接客セミナー・講演を全国展開
【出版物】
飼い主さんとのコミュニケーション講座
動物病院スタッフのジョブトレーニング講座
書籍、DVD インターズー
?