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もう一つのエマージェンシー対応

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もう一つのエマージェンシー対応

『ベッツワンプレス 2007春号(Vol.10)』掲載分

日常の案内で飼い主さんにも心の準備を促す

「待っていてもらうしかない」「出直してもらうしかない」のであるならば、予め、その事態について、飼い主さんにコンセンサスを取っておくことが大切です。
待合室には、

等と、貼り出ししておくことをお勧めします。
こういう掲示物には、院長先生のお名前を添えてください。先生のお考えとして、伝えることにもなるからです。

私は飼い主の一人として、このような啓蒙は、CE(クライアント・エデュケーション)の一つに含まれると思います。「救急の時はお互い様」と快く順番を譲ってくださる飼い主さんが一人でも増えることを願っていますが、やはり待っているときに突然言われるのと、いつもそういう心構えが出来ているのとでは飼い主さんの受け止め方も違ってきます。

待合室は飼い主さんが一番長くいる場所ですので、そういうお願い事はいつも「視覚に入る」ようにしておくと、心理的に効果があります。いつも視覚に入れるという点で、飼い主さんがいつも目にする「診察券」にも印刷しておくと、更に効果があります。

待合室の飼い主さんには必ず状況を伝える

電話で緊急の動物を受け入れることになったら、病院としてはその子を受け入れる準備に追われてしまうでしょうが、待合室の飼い主さんのことを放置するのはいけません。

突然駆け込んでこられた場合は、一段とあわててしまって、放置しやすくなります。準備にかかる前に、スタッフに待合室の飼い主さんに向かって、状況を伝えさせてください。突然、順番が変わるという事態を受け止めてもらわなくてはならないのですから、このアナウンスの最後には、丁寧さが伝わる「お辞儀」もさせましょう。

また、カウンター越しに告げると、物理的に飼い主さんとの間にある障害物が心理的にも影響します。カウンター前に出て、飼い主さんにより近づいてお願いするのがよいでしょう。距離があればあるほど、お願い事は指示・命令されたように感じてしまいますから。

「救急患者を受け入れる」「救急患者が来た」という事態は理解できても、飼い主にとって重要なことは「じゃあ、どれくらい待てばいいのか?」ということですから、これにもすぐに答えられるように準備しておきます。

実際に「○分ほどかかります」という答は出せませんが、予想される質問にはすぐに答えられるよう、予め応対の言葉を決めておく方法を「応酬話法」と言います。「来られてからでないと、明確なことはわかりかねますが、本日は獣医師○名、看護師○名で診察しております」と今の事実を伝えることで、飼い主さんなりに、このまま待つか、出直してくるか、他の用事を先に済ませるために外出するか…などの選択肢から自分で判断を始められます。飼い主さんも病院側は時間が明確に提示できないという状況はわかっていますので、大切なことは出来るだけ早く、飼い主さんなりに決断できる「情報」を提供することです。

最もまずいのは、緊急事態にスタッフが気をとられてかかりきりになり、待合室に情報を伝えずに、飼い主さん待たせてしまうことです。1時間も待ってから、どうなっているのかと聞かれ、まだわからない??それだったら、帰るわ…等のような状況を起こすと、不満を持つな…という方が無理だと思います。

実際に救急患者が来てからは、処置に追われたり、緊急手術が始まったりいろいろ展開があるでしょう。その時点でもう一度受付で

等と進捗状況を報告させます。この時点で、自分がどうするか、判断する飼い主さんは多いと思います。

複数の飼い主さんに同時に大きな声でアナウンスするというのは、実は心理的には誰もが出来ることではありません。これだけのことを一気にスムーズに説得力を持って告げるのはなかなか難しいと思います。実際には何度かリハーサルさせておかなければ、いざという時に決心がつかないでしょう。先生の病院のスタッフがすぐにできるなら、その能力を評価してあげていただきたいと思います。

私はこういう案内は動物看護士が待合室に出て行って、堂々としてほしいと思っています。是非、やらせてみてください。このような役割を担わせることで、その看護士を飼い主さんに先生が雇用している人材としてアピールすることにもなり、スタッフ全体に対する飼い主さんの信頼度が増すからです。

ただ、おそらくこういうことは、よほどのベテランさんは別ですが、院長先生の指示がなければ、看護士の判断でみずから実施するということは心理的にハードルが高くて躊躇するかもしれません。複数の看護士がいるならば、まずはできそうな人を指名して、指示すると後も続くと思います。大切なことは、「具体的に指示を出してまず誰かに実施させる」ということです。

飼い主さんの好意に対するアフターフォローを忘れない

「出直します」とおっしゃってくださった飼い主さんには、当日、あるいは翌日、お礼の電話を必ず入れてください。また、救急の動物が回復した時は、飼い主さんの同意が得られるならば、待合室に報告として貼り出しておくとよいでしょう。

このような掲示物からイメージできるものは、この日の出来事を知らない飼い主さん達にも「救急の時はお互い様」の意識に繋がると思います。飼い主さん同士も協力し合う環境を作ることで、獣医師の先生方が救急の処置に集中できるように願っております。

著者紹介

坂上緑
動物病院接客コンサルタント
坂上 緑(さかがみ みどり)
大阪ペピイ動物看護専門学校
「マナーとコミュニケーション」講師。
フリーアナウンサーとして活動しながら、国際博覧会、専門教育機関、店舗、企業で接客,セルフプレゼンテーションの研修講師を務める。大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」顧問。第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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