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待合室の印象

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待合室の印象

『ベッツワンプレス 2007冬号(Vol.13)』 掲載分

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冬は飼い主さんがジャケットやコートを着て、来院されます。手袋、帽子、マフラーなど、防寒のための小物も身につけられています。室内では脱いだり、はずしたりするものですが、診察室に呼ばれた後、それらはどうなっているでしょう。待合室に置きっぱなし…ということはないでしょうか?ヒトの病院でもこのような状況は時々に目にしますが、総合病院のように、何十人もの待合室ではあまり見かけない光景です。受付カウンターから一瞥できる範囲であれば、無意識のうちに「自分の荷物管理はカウンターにいる人に期待する」心理が働きますのでそうなるようです。これも顧客心理(購買時に起こりやすい心的状態))と言われるものの一つです。

置きっぱなしが多い理由

それにしても、動物病院では、荷物の置きっぱなしがとても多いと思います。なぜでしょうか?カウンターから一瞥できるという条件の上に、大型犬を引いたり、小型犬を抱いたり、猫や小動物のケージを持っていたり等、飼い主さんは移動のときに手が塞がってしまうからですね。その上、他の人も置いているのですから、自分の荷物を残すことへの抵抗も少なくなりがちです。そういう飼い主さんの心理までもが重なって、待合室の中はあちらにも、こちらにも、荷物が置いてある状況が発生します。

しかし…入った瞬間に、前の方の持ち物や荷物が椅子の上に置かれていると、待合室全体が散らかり、雑然とした状態で目に入ってきます。決してよい感じではありません。さらにその荷物のために、自分が選択できる椅子が制限されていると、ストレスが増大します。まして、荷物のために「座れない」状況が起こると、苛立ちすら感じます。だからと言って、他人様の荷物を勝手に移動できる人はあまりいないでしょう。「待つ」とそのものが、顧客にとっては始めからストレスなのです。荷物に椅子を占領されて、立って待つことを余儀なくされては、更にストレスを増大させます。

人的サービスへ転換する解決法

特に初診の方にとっては病院の第一印象は待合室の状態そのものですから、待合室を常に整然した状態に保ち、清潔感をアピールすることは重要なポイントです。飼い主さんへは、持ち物は全て診察室の中へ持ち込んでいただくよう、スタッフに案内させるとよいでしょう。物理的にできない状態の方には、荷物を持ってあげるヘルプが必要になります。そうすることで、個々の接遇レベルはアップしますし、待合室もすっきりした状態で常にキープされます。

私はセミナーで、荷物を持つなどヘルプする案内するやり方をお奨めしていますし、学生達には授業内でロールプレイもさせています。忙しい時に、待合室まで出て行くのは面倒なことのように感じるかもしれませんが、親切な対応が提供できるなら接遇こそがアピールの機会です。待たされていた飼い主さんは、診察室に入る直前にそういうサービスを受けると気をよくして、前向きな状態で獣医師と向き合うことになるからです。飼い主さんの心をポジティブにして、診察室へ誘導することは獣医師への大きなヘルプではないでしょうか。診察室への案内の声かけを獣医師がしているならば、荷物を持つのも獣医師がすることをお勧めします。このようなアプローチはダイレクトにその獣医師に対する好意が飼い主さんの心の中に芽生え、先生の指示や提案を受け止めようという気持になりますから、その後の関係がうまく行きやすいと思います。

荷物の置き場所

さて、これらを実施するためには、診察室の中に「荷物を置く場所」が必要ですが、それは、経営者である院長先生に作っていただかなくてはなりません。キャスターのついた2段のプラスティックバスケットなどは、必要に応じて移動できて便利です。シャープな印象にしたいなら、スチール製でもよいでしょう。スペースに余裕がないなら、診察台の下に収まる高さのものでどうでしょうか?手袋、マフラーなどの小物が増える冬場は、持ち物が多くなりますので、纏めて入れるビニールバック等をご用意いただき、それに入れていただくようにすると持ち運びがとても楽になります。どちらも非常に安価で揃えられると思いますので、是非ご検討をお願いしたいものです。

差別化サービスへの展開

スペース的に可能ならば、コートやジャケット類はハンガーにかけて受付でお預かりできるとbetterです。受付裏の見えない場所に、60~90センチほどの安価なハンガーラックを置くか、突っ張り棒を渡しておくだけでも提供できるサービスです。獣医療に必要な設備投資には高額のコストがかかりますが、まだどこもやっていない人的サービスの工夫は、コストをかけずに差別化ができます。美容院などでは以前から提供されているサービスですが、動物病院では「ちょっとサプライズ」となるでしょう。それだけに初診の方には強い印象として残ると思います。病院が提供するサービスは、それを実施する人材を「親切で優しい人」というイメージとして伝えることになるのです。

待合室管理の効果

待合室は飼い主さんにとっては診察室にいる間よりも何倍も長い時間を過ごすところです。ただ、「待って」いるわけですから、動物の症状がよほど気になる場合を除いて、ヒマをつぶさなくてはなりません。すっきりした清潔なところにいたいと感じるのが自然でしょうし、待合室で起こることの全ての出来事が、病院の印象としてインプットされます。多くの人的工夫が、待合室で展開されることで「この病院を選んでよかった」という確信に繋がれば、リピート率、継続率が高まるでしょう。

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飼い主さんは獣医療について直接判断できることが少なく、動物病院から提供されるものは、総合的なイメージとして捉えますから、このような工夫は、是非診療費に反映させていたただきたいと私は思っております。動物病院が提供しているものは決して安価ではありません。高額なものを提供するところが共通して店舗に供えているものは「空間の余裕」と、そこに設えた「日常から離脱したイメージ」です。待合室に端がめくれかけていたり、古くなって色が変わった案内ポスターなどを貼るのはお避けください。マジックペンで無造作に書いたお知らせ等もイメージをダウンさせます。ちょっと手間はかかりますが、パソコンで作成しましょう。

著者紹介

坂上緑
動物病院接客コンサルタント
坂上 緑(さかがみ みどり)
●大阪ペピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師
●株式会社葉月会 北摂夜間救急動物病院 執行役員
●動物病院に特化した接客セミナー、講演を全国展開
【出版物】
『飼い主さんとのコミュニケーション講座』
『動物病院ジョブトレーニング講座』
書籍・DVD(インターズー)
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