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本質を見逃さない問題認識

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本質を見逃さない問題認識

『ベッツワンプレス 2008秋号(Vol.16)』 掲載分

花イメージ画像

クレーム対策と言うと、「不快感情の人の対応方法」というとらえ方をしている人が多いようです。
ですから、セミナーでもクレームがテーマであれば、「薬を間違えて渡してしまった飼い主さんが怒ってしまいました。
こういう時はどうしたらいいんでしょう」式の質問が寄せられます。
もちろん「不快感情の人」に対する応対のノウハウというのはありますので、
その場で応対方法について解説しておりますが、私には、そのご質問をされる方の心の状態と、
更にはその方々がこういう形で質問をされるという現象の裏にある病院の問題について感じるところがあります。

問題認識の重要性

起こった現象に対する飼い主さんの怒りを静めることばかりにとらわれると、問題の本質を見失うことがあります。そもそも「薬を渡し間違える」のは大問題です。それが複数回起こったならとんでもなく問題です。更に時々起こることには問題意識が薄れるという悪循環が起こります。飼い主様の怒りを静めるのは「事後の処理」で、「対策」ではありません。本来、「対策」というのは、起こらないように事前に策を練ることです。当然、「薬を決して渡し間違えないようにするにはどうすればいいか」へ意識を向けることが何よりも重要ではないでしょうか。

このようなことは、全ての人が動物病院で仕事を開始する時に、「医療従事者の心構え」として、認識する教育を受ける必要が必ずあると思います。薬を渡し間違えるというミスの重大さを認知しているならば、今後も薬を渡し間違える可能性を前提として、クレーム対応としての「飼い主様の怒りの静め方」についての質問はされないのでは?というのが、一飼い主としての私の感じ方です。

一般の店で、注文品を間違えて渡してしまうことと、獣医師が処方した薬を間違えて渡すことには大きく違いがあります。受け取った人が「これは私が必要としていたものと違う」という判断ができないこと、だからこそ、更にそれが飼い主の手で投薬されてしまい、動物には大きくマイナスの影響が出てしまう可能性があるからです。動物の影響によっては、飼い主は「その病院を選択した自分を責めながら生きる」ことにすらなることもあります。

組織として問題を分析・改善する

薬を渡す看護師だけの努力では追いつかないことも多々あると思います。看護師は個々の獣医師のクセややり方に合わせて臨機応変に…等と言われることもあるようですが、獣医師の数が増えれば限度があると思います。獣医師も複数がいる病院ならば、カルテの書き方をできる限り統一し、新人の看護師でも理解しやすいようにするとか、診察終了、薬待ちとか、薬無しで精算待ちなど、業務の進捗状態が誰にでもわかるように、カルテの置き場等も統一して決める等、ルールが必要でしょう。

カルテはカルテ棚から持ち出された後、診察を受ける、薬やフードだけの受け渡しなど複数の経路があります。獣医師の判断を仰ぐもの、看護師の判断で処理できるものなどの条件を加味すると、さらに多岐の経路をたどることになるのでしょうから、同時に多くの来院があると、一斉に病院中のスタッフが忙しくなり、ミスが起こりやすくなります。処方された薬が間違いなく飼い主に渡るようなルールを獣医師達が看護師達と話し合って決め、忙しくて猫の手も借りたいほどの状況の中であっても、ミスが起こらないための運営システムを構築することがとても重要です。複数でチーム医療を展開していく方向へ進んでいるのですから、スタッフ全員がその手順、段取りを踏むことを心がけることで、防げるミスはたくさんあると思います。

プロとして判断する優先順位

職業によって「絶対に」起こしてはならないことがあります。例えば人の名前を間違って呼んでしまうことは、誰にでもあることですが、結婚式を執り行う時、牧師や神官、または司会者が新婦の名前を間違えて読んでしまったらどうでしょうか?一生に一度の大切なその瞬間が台無しになります。本人も、その家族も非常に残念な思いをするはずです。「山田花子」は「ヤマダハナコ」と読むことは100%間違いないことのように思えるかもしれませんが、固有名詞の読み方にはあらゆる可能性があります。だから、こういう職業の人たちは、この人に限っては「サンデンカコ」と読むのかもしれない可能性を鑑み、必ず、本人に確認をしてフリガナを打っておかなくてはならないのです。

「ヤマダハナコ様ですね?」と確認をすれば、もしかすると「そんなの聞かなくても見ればわかるじゃないですか」という反応もあるかもしれません。それはある意味、相手の不快感情を起こすことなのかもしれません。ですが、だからと言ってその後に起こるリスクを鑑みれば、省いてはならない確認作業です。プロとしての責任を果たすためには、省いてはならない作業を省かず、どうすれば相手にそれを自然に受け入れていただけるかの工夫と、応対のスキルを向上させることしかありません。

薬の説明を詳細に聞くことを「面倒がる」飼い主様もいらっしゃるというのはよく聞きます。だからといって「いつものお薬」を袋詰めにした状態で、見せて確認するという作業を怠ってはならないというのが、医療に従事する人のプロ意識ではないでしょうか。処方箋薬局の薬剤師さんは説明を省いたりはしないと思います。病院から託された医師の処方どおりの薬を間違いなく、お渡ししますということを「患者に伝えることも責任」と認識しているからです。

教師は生徒の怠慢を注意しなくてはなりません。相手の不快感情を覚悟しても、責任を果たすには、相手の不快も覚悟する心構えが必要と思います。相手のご機嫌を恐れる時、本当に避けているのは、相手の不快感情ではなくて、相手の不快な言動により自分が感じるであろう不快感ではないでしょうか?

「面倒くさがられる」「うるさがられる」という現象も受け止めるというのは、基本的には獣医療従事者の「動物に対する愛情を全うするという目的」をもった応対だと私は思います。飼い主様の不快感情が表れた言動を引き起こすことは、誰もが「自分の心のためには嫌なこと」であるのでしょうが、だからと言って間違いを防ぐための確認作業を省けば、当然「渡し間違い」というとんでもない現象が起こります。

飼い主様のその場限りの言動で、「この人は説明を聞かない人」と結論付けをして、今後その人に対しては説明を省くという判断が正しいとは言い切れません。面倒くさがる態度を示すのは、説明する人の説明がわかりにくかったり、看護師の説明の重要性を病院全体が伝え切れていなかったり、あまりにも精算までの待ち時間が長くて、いらいらしていたり・・・等の可能性も考えられます。薬の説明をしっかり聞こうという気持ちに飼い主様をさせるのは、その時点までに飼い主様がその病院でどのような体験をしたかによります。

もしも「薬の渡し間違い」のような重要なミスが起こったとしたら、そこから、解決するべき問題点が病院全体のシステムや、個人の心構えの中に、いくつもいくつも見えてくるものです。一つずつでもいいので、ミスを防ぐ改善案を出して、実施しましょう。間違えた人に「以後気をつけるように」という注意喚起だけでは、間違えられた飼い主様と動物達は納得できないのではと思います。

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著者紹介

坂上緑
動物病院接客コンサルタント
坂上 緑(さかがみ みどり)
●大阪ペピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師
●株式会社葉月会 北摂夜間救急動物病院 顧問
動物病院に特化した接客セミナー、講演を全国展開
【出版物】
『飼い主さんとのコミュニケーション講座』
書籍、DVD (インターズー)
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