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小動物臨床におけるリハビリ入門

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日本大学獣医外科学研究室 日本大学動物病院 整形外科・神経運動器科 枝村一弥

第4回① 物理療法、リハビリテーションの実践編

ベッツワンプレス2010冬号(Vol.25)

はじめに

今回は、「小動物臨床におけるリハビリ入門」の第4回として、電気刺激療法、低出力LASER療法、超音波療法、近赤外線療法、体外衝撃波療法といった物理療法の治療目的とその効果について解説する。わが国においても、物理療法を行うための獣医療用の機器が販売されており、多くの動物医療施設でこれらの機器が導入されている。医学領域では、多くの研究とエビデンスに基づいてこれらの療法が適切に選択され適用さているが、獣医療においては経験的な側面から治療が行われていることが多い。したがって、実際に犬や猫へ物理療法を行う者は、それぞれの療法の治療意義、適応、適用方法を十分に把握してから治療に望むべきである。

さらに、本稿は連載の最終回でもあるため、第1回から第3回までの集大成として、比較的に遭遇する機会の多い症例を示しながら、リハビリテーションの考え方と実際の治療の流れを紹介する。本稿が明日からリハビリテーションを実施する上での参考となったら幸いである。

物理療法

物理療法とは、電気、光線、温熱、超音波などのエネルギーを利用して症状を緩和させる療法のことで、主に疼痛の緩和、神経刺激、筋力の回復、創傷治癒などの目的で行われることが多い。物理療法は単独で行うのではなく、マッサージ、他動運動、運動療法といった他の療法と併用することで最大限の効果を発揮する(図1)。動物医療で応用されている物理療法には、温度療法、電気刺激療法(TENS、NMES、EMS)、低出力LASER療法(LLLT)、超音波療法、体外衝撃波療法、近赤外線療法、低周波療法、短波ジアテルミーなどがある。これらの物理療法は、週に数回から毎日の頻度で行い、定期的に症状を評価して治療の継続の有無を検討する。

整形外科疾患や神経疾患の動物では、温度療法や電気刺激療法が特に有効である。損傷または発症3~4日以内は患部の寒冷療法、それ以降では温熱療法が有効である。電気刺激療法は、疼痛の緩和に有効なTENSと、運動ニューロンを刺激することで筋肉を収縮させるNMESがあり、動物においても効果的である。LLLTや超音波療法は、炎症の抑制、疼痛の緩和、創傷治癒の促進といった効果が期待され、実際に関節疾患や脊柱疾患の多くの動物で行われている。最近では、獣医療用のこれらの機器も開発および販売されており、多くの物理療法を実施することができる。しかし、これらの機器の特性を理解して正しい方法で利用している者は以外に少ないように思われる。したがって、物理療法を行う時には、その位置づけや、それぞれの療法の適応と効能について十分に理解してから、治療を展開すべきである。

図1 物理療法の位置づけ。物理療法は単独で行うのではなく、マッサージ、他動運動、運動療法といった他の療法と併用することで最大限の効果を発揮する。

温度療法

温度療法とは、体もしくはその一部を温めたり冷やしたりして行う物理療法のことを指し、主に寒冷療法と温熱療法に分けられる。寒冷療法は術後や外傷後の3日以内である急性期に適用されることが多く、温熱療法は慢性関節炎や損傷3~5日以降の亜急性期から慢性期に適用される。運動前のウォーミングアップには温熱療法、運動後のクールダウンには寒冷療法が適用される。

図2 コールドパック・ホットパック

寒冷療法は、氷を体表にあてることにより容易に行うことができる。この時、凍傷を防ぐためにタオルや布に角氷を包んでから体表にあてる。市販のコールドパック(図2)を使用することもできる。コールドパックを使用する時にも、タオルや布で包んでから体表にあてることが推奨されている。寒冷療法を行うと、血管の収縮や細胞代謝の減少による炎症の抑制、疼痛の緩和、筋攣縮の減少といった効果が得られる。しかし、このような方法では、3cm以上の深部まで十分に冷やすことが難しいことも理解しておくべきである。1回につき15~20分で、1日に数回行うのが一般的である。

温熱療法には、ホットパック(図2)や温めたタオルによる加温、近赤外線療法、温水浴、ジアテルミー療法、超音波療法といった療法が行われている。これらの療法は、温めたい組織の深さによって使い分ける。一般的に、組織深度が1cm以下までの加温はホットパック、皮下組織まで温めたい時には温水浴、選択的に筋肉を加温したい時にはジアテルミー療法、深層まで温めたい時には超音波療法が適用される。温熱療法を行うことにより、コラーゲン・筋・腱の伸張、筋肉のリラックス効果、疼痛の緩和、神経機能の改善、血管の拡大、血流の増加といった効果が得られる。1回につき15~20分で、1日に2~3回行うのが一般的である。

電気刺激療法

電気刺激療法は、獣医療域においても神経疾患や整形外科疾患で効果があると報告されており、欧米では広く用いられている。電気刺激療法は、急性痛または慢性 痛の緩和や、麻痺の動物における神経刺激に用いられている。電気刺激を行うと、内在性エンドルフィンが分泌されることにより疼痛緩和効果が得られる。また、局所の循環改善や炎症の緩和といった効果も認められる。さらに、筋肉を電気刺激することにより、筋群が緊張と弛緩をし、筋力の増強や持久力、そして有酸素運動能の改善といった効果も認められる。電気刺激の方法には、神経筋電気刺激(Neuromuscular electrical stimulation: NMES;図3)、経皮的電気神経刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS;図4)、電気的筋肉刺激(Electrical muscle stimulation: EMS)の3種類の方法がある。NMESとは、正常に機能している運動ニューロンを介して筋肉を収縮させる刺激方法で、多くの整形外科疾患および神経疾患で行うことができる。TENSとは、主に疼痛緩和のために行われている電気刺激法で、関節痛や背部痛の治療で用いられている。TENSには、痛みのある部位に電極を設置して行う局所刺激法と、脊髄分節に沿って脊柱周囲に電極を設置して行う脊髄分節的刺激法に大別される。例えば、膝関節炎の時には膝関節へ直接電極を設置して刺激することができるが、治療したい部位に金属性インプラントが存在する時には脊髄分節的刺激法にて治療を行う。EMSは、筋線維を直接刺激して筋肉を収縮させる電気刺激法で、筋力増強や肥満の改善を目的に行われている。

図3 神経筋電気刺激

図4 経皮的電気神経刺激

神経疾患や整形外科疾患の動物において疼痛のコントロールを行う時には、TENSを用いて治療する機会が多い。犬の整形外科疾患においては、術後、前十字靭帯断裂、骨関節炎、股関節形成不全、肘関節形成不全などで有効性が示されている。急性痛では80~150Hz、慢性痛では0~10Hzの周波数が有効であると報告されている。禁忌は、金属性インプラント装着部位、皮膚の感染、炎症、発作歴、腫瘍、心ペースメーカーの装着されている動物である。一定した見解は無いが、1回につき約15分で、週に3~5回行う方法が推奨されている。

低出力LASER療法(LLLT)

100mW以下の周波数のLASER(レーザー)を用いた光線療法を、低出力LASER療法(LLLT)という(図5)。獣医療においても骨関節疾患や脊柱疾患で一定の効果があると報告されており、わが国においても広く用いられている。骨関節炎、前十字靭帯断裂、上腕二頭筋腱炎、椎間板ヘルニア(図6)といった症例において、疼痛緩和を目的として適用されることが多い。レーザーには、創傷治癒促進効果もある。

レーザーの生体内での作用機序は極めて複雑である。レーザー光のほとんどはミトコンドリアで吸収され、ATPの産生を増加させ、最終的にDNAを刺激して細胞代謝の活性化や蛋白質合成を促進させる。これにより、貪食細胞の活性化、血流やリンパ流の改善、代謝改善などの抗炎症効果が認められる。また、内在性エンドルフィンの放出を刺激することで、疼痛緩和効果を得ることができる。

レーザー療法を行うときには、現在病院で所有している機種の波長を把握しておく必要がある。ヘリウムネオン(HeNe)レーザーの波長は約630nmで、1~4J/cm2では0.5~2.0cmの深さまでしか直接効果が得られない。半導体(GaAs, GaAlAs)レーザーの波長は約800~980nmで、HeNeレーザーよりも深部まで到達する。半導体レーザーの直接効果は深さ2.0cm、間接効果では深さ5.0cmまで認められたという報告がある。治療を行う者は、直接効果の得られる深部到達度を理解して治療すべきである。

LLLTを行うときには、罹患部位の周囲で照射するのが一般的である。犬においても、HeNeレーザーやGaAlAsレーザーで治療した群は、何も治療を行わない群と比較して有意に疼痛緩和効果を示したという報告がある。しかし、HeNe群とGaAlAs群との間には有意な差は見出されていない。一方で、疾患ごとまたは部位ごとの照射条件が未だ確定していないため、施設ごとに照射条件が異なるという問題点がある。今後、これらの詳細な検討が獣医療域においても行われることを期待したい。

図5 低出力LASER治療器

図6 椎間板ヘルニアの症例に対し低出力LASER治療を行っているところ

超音波治療
図7 低出力パルス超音波治療器による骨折の治療

超音波療法はより深い部位を温めるために行われている温熱療法で、欧米では広く用いられている。骨関節疾患では、慢性腱炎、上腕二頭筋腱炎、骨関節炎、骨折、関節可動域(ROM)制限、前十字靭帯断裂の動物で広く用いられている。治療には、周波数、照射強度、使用率が影響するので、治療を行う者はこれらのことを理解しておく必要がある。周波数は1MHzと3MHzの2種類があるのが主流で、表層を加温したい時には3MHz、より深部を加温したい時には1MHzに設定して治療を行う。照射強度(出力)は、組織温に影響する。照射強度(出力)は、一般的に0.5~2W/cm2に設定されることが多い。照射強度(出力)が高いほど、温度の上昇が高くかつ早い。使用率は、通常5~50%に設定する。超音波療法を行うときには、短毛の動物であっても毛を刈る必要がある。また、治療を行う時には超音波ゲルを十分に塗布して、トランスデューサーと皮膚を密着させないと、十分な治療効果が得られないので注意が必要である。骨の隆起部、金属性インプラント装着部位、成長板、心臓、妊娠子宮、精巣には、直接照射しないように注意する。連続波(CW)とパルス波(PW)の2種類の超音波が、主に治療に用いられている。連続波(CW)は、加温効果が高い。パルス波(PW)には、マイクロマッサージという物理的な効果も期待することができる。最近では、低出力パルス超音波治療器(LIPUS)が、骨折癒合促進の目的で使用されている(図7)。

近赤外線療法
図8 近赤外線治療器

近赤外線療法とは、光エネルギーを用いた温熱療法であり、わが国においても動物用の治療機器「アルファビームALB-PZ1:ミナト医科学株式会社:(図8)」が販売されており、実際の治療に使用することができる。動物に近赤外線を照射すると、深部組織の加温、血流増加による酸素と栄養の供給増加や老廃物の除去、神経の活動を抑制することによる疼痛の緩和といった効果が期待できる。レーザー療法に比べて深部まで治療効果を得たいときに有効である。犬や猫における近赤外線療法の適応は、椎間板ヘルニアや骨関節炎の症例における疼痛緩和、外傷、創傷、術傷、口内炎、歯肉炎の治癒促進である。治療条件の検討もなされているが、亜急性期で15~20分間、慢性期で20~30分間の照射が有効であったという報告がある。近赤外線療法は、急性炎症や化膿性疾患では禁忌である。

体外衝撃波療法
図9 体外衝撃波治療器

体外衝撃波療法とは、体外から衝撃波エネルギーを与えて、疼痛緩和と創傷の治癒促進効果を得る治療である(図9)。衝撃波エネルギーは、生体内でサブスタンスPの放出を促進することで疼痛を緩和し、オステオカルシンを放出により骨棘が抑制されると報告されている。また、腱の再構成の促進にも影響している。わが国においても、動物医療用の体外衝撃波治療装置が農林水産省の認可を得ており、現在では主に競走馬で用いられている。治療に用いる衝撃波はかなり強いため、犬で治療を行うときには、鎮静もしくは全身麻酔が必要である。海外では、犬においても多くの治療が行われており、骨関節炎、股関節形成不全、上腕二頭筋腱炎、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症で有効性が示されている。