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犬猫の腹部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 小山 秀一

第4回 消化管・膵臓

ベッツワンプレス 2013冬号(Vol.37)

消化管の超音波検査は、動物を仰臥位または横臥位に保定して行うが、消化管内容物やガスの状態により常に一定に描出されるとは限らない。使用するプローブは、高周波数(8.0MHzやそれ以上)のコンベックスもしくはリニア型が推奨される。胃や近位十二指腸の描出には、胸郭の下部や肋間での走査が必要となるため、マイクロコンベックスが便利である。

検査前の準備として、消化管内容物やガスによる障害を低減するために12時間の絶食が推奨されているが、必ずしも良好な画像が得られるとは限らない。消化管内容物やガスは、音響陰影(シャドー)やコメットサインなどのアーチファクトの原因となるため、プローブ走査の際には注意する必要がある。

 

消化管の観察では、消化管壁の厚さや層状構造、内腔の大きさおよび運動性が評価可能であり、診断の際にはこれらを注目することがポイントである。消化管壁は、内側から高エコーを呈する境界エコーおよび粘膜層の一部、次の低エコー層(粘膜筋板を含む粘膜層)、高エコー層(粘膜下層)、低エコー層(筋層)、そして最外層の高エコー層(漿膜下層、漿膜と境界エコー)の5層からなり、正常な消化管を高周波数のプローブで観察するとこれらの構造が明瞭に観察される(図1)。

犬猫の消化管壁の厚さ,図1

胃の描出法
図2

犬の胃は、頭側腹部をほぼ垂直に横切り、肝臓の尾側に位置している。猫の胃もほぼ同様であるが、幽門洞が脊椎の位置にありやや斜めに横切っている。したがって、胃の描出では剣状突起下の左側で胃体部が描出されてくる。一般に縦断走査により、胃の横断像(短軸像)が描出されるため大まかな位置関係が把握しやすいが、必要に応じて横断走査などでも観察する(図2)。胃は、その大きさと規則性のある蠕動運動および皺の存在により容易に認識できる(図3)。胃の蠕動運動は、正常であれば1分間に4~5回観察される。胃壁の厚さは、犬では平均3~5mm、猫では2mmといわれているが、胃の大きさなどにより異なることもある。

幽門洞は、犬では剣状突起のやや右側、猫では正中付近の縦断走査で確認しやすい(図4)。この走査では、幽門洞の短軸像が描出されるため、蠕動運動に伴う胃の収縮により胃壁皺が明瞭に観察される。

図3,図4

十二指腸の描出法

犬では下行十二指腸が右腹壁に沿って走行するため、十二指腸の描出では、右最後肋骨後縁からアプローチする(図5)。このアプローチで右腎の長軸像を描出し、超音波ビーム面を身体の内側または外側に振り、腸管壁が比較的厚く蠕動運動が活発な腸管を探す。犬では、十二指腸壁が他の腸管壁よりやや厚く、腸管内容物の動きが明瞭に観察される(図6)。下行十二指腸が確認できたならば、十二指腸の走行に沿って頭側や尾側方向へプローブを移動させ観察する。近位下行十二指腸は肋骨に覆われた腹腔内にあることが多いため、最後肋骨後縁からのアプローチでは十分に描出されないことがある。

図5, 図6

図7

そこで、上行から下行十二指腸への移行部の描出には肋間走査が有効である。第11肋間前後で横断像による肋間走査を行い、肝臓の尾側に近位下行十二指腸の横断像を描出させる(図7)。この時のポイントは、プローブマーカーを動物の胸骨側に向け、最初はできるだけ背側よりにあてることである(図8)。そして、その後プローブを肋骨に沿って腹側に移動させながら十二指腸を探すようにする。このプローブ走査を繰り返しながら肋間を移動することで、十二指腸が描出できる。下行十二指腸の横断像が描出されたならば、プローブマーカーを少しずつ尾側方向へ回転させることで、上行十二指腸の一部が描出されてくる。また、下行十二指腸も横断像から縦断像へと変化する(図9)。

 

図8, 図9

一方、猫では下行十二指腸が上腹部正中から右上腹部に向けて弧を描くように走行するため、幽門洞の描出位置からアプローチし、右上腹部方向へ移動しながら十二指腸を描出する。ただし、猫では十二指腸と空腸とでは壁の厚さがほぼ同じであるため、犬ほど明瞭な違いがないため腸管の運動性に注意して鑑別する。

その他の小腸と大腸の描出
図10

その他の消化管としては、空腸と回腸と結腸があるが、犬では超音波検査で空腸と回腸を明確に識別することはできない。また、結腸は一般的に小腸より壁は薄く、ガスや便が貯留していることが多いため、シャドーを伴うことが多い(図10)。なお、猫の回腸は高エコーな粘膜下層や筋層が目立ちwagon-wheel(馬車の車輪)サインと呼ばれている。

これらの消化管の描出では、特定の部位を走査するというよりは、腹部全体の走査の中で壁の肥厚や異常な内腔の拡張がある消化管が認められるかに注意して検査を進めることが重要である。

 
膵臓の描出法
図11

膵臓は、腹部臓器の中ではもっとも描出が難しく、評価しづらい臓器である。胃の大弯から下行十二指腸の腸間膜側に沿ってある薄くて細長い臓器であるため、消化管内のガスが描出の妨げとなりやすい。したがって、膵臓の検査時には、12時間の絶食を行うことで消化管ガスを軽減することが可能である。

犬では、膵左葉に比較して膵右葉の方が描出しやすい。膵右葉を描出する際のランドマークとしては、右腎ならびに十二指腸を用いる。膵右葉の描出は、十二指腸の描出と同じ最後肋骨後縁の腹側からの走査を用い、下行十二指腸を描出後、プローブマーカーを動物の左側に回転させ十二指腸の短軸像を得ることで、十二指腸の内側(画面では下側)に膵右葉が描出される(十二指腸の描出法を参照)(図11)。ただし、この時のプローブの位置は腹側アプローチよりやや側方アプローチで行うことで膵臓の描出が容易となる。

膵体部から膵右葉にかけては、右肋間走査による上行および下行十二指腸の描出法と同様の走査により、上行と下行十二指腸に囲まれた領域に膵体部から膵右葉が描出される(図9)。

犬の膵左葉は、隣接する胃や横行結腸内のガスや内容物のため描出が困難である。猫では、剣状突起下の横断走査で肝門部の門脈を描出し、そのままプローブを尾側に移動していくと門脈の左側と胃の背側との間に膵左葉が描出されてくる。この時プローブのマーカーをやや尾側に向けるようにしながら走査することがポイントである。