鼻と聞いて、まず思い浮かべるのは、においを感じる役割でしょう。においは
鼻腔
内の粘膜のどこでも感じられるわけではなく、鼻の奥にある
嗅上皮
と呼ばれる限られた部分でのみ感知することができます。
鼻は呼吸器でもあります。鼻腔内は複雑な形をしていて、粘膜で覆われています。外から取り込まれた冷たく乾いた空気は、粘膜の水分によって加湿され、また鼻腔内を通るうちに温められて、気管や肺への刺激を和らげてくれます。
空気中には、ウイルスや細菌、ホコリなど、様々な異物が含まれています。鼻粘膜には線毛と呼ばれる細かい毛があり、これらの異物を吸着し、線毛運動によって鼻の外へと排出します。
また、鼻粘膜にある白血球やリンパ組織は細菌やウイルスを撃退する役割も。鼻は外からの危険な異物が体内に入り込まないように戦う、最前線でもあるわけです。
鼻の役割自体は犬も人も変わりませんが、圧倒的に異なるのは、においを感じる能力です。
においを嗅ぐ力は、鼻腔の奥にある嗅上皮という粘膜の広さと、そこに存在する嗅細胞の数によって決まります。人の嗅上皮は3~4c㎡しかありませんが、犬の嗅上皮はヒダが多く、表面積は人の10~50倍。嗅細胞の数も人の500万個に対し、犬は約2億個もあり、感度も鋭敏です。
嗅ぎ取る能力はにおいの種類によって異なりますが、犬の嗅覚は人の1000倍~1億倍といわれています。この1000倍優れているというのは、空気中を漂うにおい分子の濃度が1000分の1になっても嗅ぎ取れるという意味です。
さらに犬には、鼻腔と上顎との間に、ヤコブソン器官(
鋤鼻器
)と呼ばれるフェロモンを感知する器官があります。フェロモンはにおい物質に似た揮発性の物質で、発情期のメス犬が発する性フェロモンや、母犬が子犬を安心させるために発する鎮静フェロモンなどが知られています。
人の場合、このヤコブソン器官の存在や働きについては、いまだよく解明されていません。
犬はクンクンとしきりににおいを嗅ぎますが、よく観察すれば、2通りの嗅ぎ方をしていることに気づきます。1つは、地面に鼻をすりつけるようにして、地面に残されたにおいを嗅ぐ方法。もう1つは、鼻先を高くして、空気中を浮遊するにおい分子そのものを嗅ぐ方法。
犬はこの2つの嗅ぎ方を使い分けながら、目的物を探索しますが、犬種によって、嗅ぎ方にも得手不得手があります。前者が得意なのは、嗅覚ハウンドと呼ばれるブラッドハウンドやバセットハウンド、ビーグルなど。後者が得意なのが鳥猟犬のポインターやセッターなどです。
ちなみに犬のなかでも、パグやブルドッグなどの短頭種は、鼻腔の長い犬種に比べ、嗅覚が劣るといわれています。
鼻腔がウイルスや細菌、真菌などに感染したり、アレルギーが原因となって発症し、鼻水やくしゃみなどの症状が出ます。初期はサラッとした鼻水ですが、重症化するとドロっとした膿のような鼻汁に。放置すると炎症が鼻の奥まで広がり、副鼻腔炎を引き起こすことも。
鼻腔にできる悪性腫瘍。それほど多い病気ではありませんが、シェルティなどの長頭種は注意が必要です。症状は鼻汁やくしゃみ、鼻血など。とくに犬の鼻血は、決して軽視してはいけません。
短頭種に多い鼻の先天性の異常。生まれつき鼻孔(鼻の穴)が狭く、鼻を鳴らしながら呼吸したり、鼻水を飛ばしたりします。運動時や興奮時に酸欠になりやすく、日常生活に支障をきたす場合は、鼻孔を広げる外科手術を行うこともあります。