リンパ腫は、俗に言う“血液のがん”。猫に発生する全腫瘍の約30%はこのリンパ腫です。腫瘍のできる部位によって、「縦隔型」「消化器型」「多中心型」「節外型(中枢神経系、腎臓、皮膚、鼻腔、眼)」などに分類されます。猫では、消化器型や縦隔型が多く、犬に多い多中心型はそれほど見られません。
猫の悪性リンパ腫は、猫白血病ウイルス(FelV)との関連性が強く、とくに縦隔型では、発症した猫の大半が猫白血病ウイルス陽性であることが知られています。症状は発生部位によって異なり、次のような特徴があります。
【縦隔型】
心臓の前方にある縦隔リンパ節に発生するもので、腫瘍で肺が圧迫され、呼吸困難に。進行すると胸水が溜まり、さらに呼吸が苦しくなります。また、食道を圧迫してえん下困難になることも。発症年齢は平均2~3歳と若く、その多くは猫白血病ウイルスに感染しています。
【消化管型】
腸管と腸間膜リンパ節に発生するもので、症状は、食欲不振、体重減少、下痢、嘔吐などで、腹部にしこりを触ることもあります。腫瘍が大きくなると腸閉塞の原因にも。高齢猫に多いリンパ腫です。
【多中心型】
体表にあるリンパ節が腫れるもので、顎の下、首の付け根、脇の下、内股などにしこりができます。当初はしこり以外は無症状ですが、進行するにつれ、肺、肝臓、脾臓、骨髄などに転移して、食欲不振や体重減少が見られるようになります。
悪性リンパ腫の治療は、抗がん剤を用いた化学療法が中心です。
また、予防のために、猫白血病ウイルスのワクチン接種が望まれます。
肥満細胞は、皮膚のかゆみを引き起こすヒスタミンを放出する細胞で、体のどこにでもあります。この細胞が腫瘍化するのが肥満細胞腫で、発生部位によって「皮膚型」と「内臓型」に分かれます。
【皮膚型】
頭部や首の周り、肘やかかとなどの関節周囲によくできる数ミリ程度の小さな出来物で、犬の肥満細胞腫と違って、それほど危険なものではありません。ただし、すべてが良性というわけではなく、ごくまれに急激に大きくなったり、内臓に転移したりすることもあるので、観察が必要です。
【内臓型】
肝臓や脾臓、消化管などにでき、その多くが悪性です。食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が見られ、進行すると腹腔内のあちこちや肺へ転移します。
治療は、がんの進行度合いや猫の体力などに応じて、外科手術や抗がん剤治療が行われますが、積極的な治療が難しい場合は、症状を緩和する対症療法となります。
猫の乳腺腫瘍は悪性度の高いものが多く、約9割が悪性(=乳がん)とされています。
猫の乳腺は左右4対あり、乳腺腫瘍は、そこに1つ~複数個の硬めのしこりができます。初期は数ミリ程度の小さなものですが、進行するにつれ大きくなり、しばしば自壊して潰瘍化し、出血することもあります。
転移しやすいので、治療は、腫瘍ができた側の乳腺をすべて切除し、場合によっては、その後、もう片側の乳腺も切除してしまいます。肺などにすでに転移がある場合は、手術をしても延命効果は期待できません。 とにかく早期発見が重要です。また1歳未満で避妊手術をすると、かなり発生を抑えられるとされており、交配の計画がなければ、早めの避妊手術が望まれます。
皮膚や粘膜を構成する扁平上皮に発生するがんで、猫には比較的よく見られます。
皮膚にできるものは、日光が誘因とされ、外に出る毛色が白い猫は要注意。紫外線の刺激によって、耳介、鼻筋、まぶたなどに発生しやすいです。初期はかさぶたや擦り傷のようですが、次第にただれや潰瘍がひどくなります。予防のためにも、室内飼育が望まれます。
扁平上皮がんは皮膚だけでなく、舌や歯茎、顎など口腔内にも発生します。口内にしこりやただれ、潰瘍などが見られ、進行すると血の混じったよだれを流したり、水を飲んだり食べたりするのに支障をきたすようになります。
治療は、がんのできた部分をできるだけ広範囲に切除する外科手術が中心ですが、切除不能な場合には、放射線治療や抗がん剤治療が選択されることもあります。
ワクチンの接種部位に発生する肉腫で、猫だけに見られます。ワクチンを打つと、炎症を起こして一時的に硬いしこり(硬結)ができることがありますが、通常は、自然に消失します。ところが、しこりが数カ月経っても消えなかったり、大きくなったりする場合は、ワクチン誘発性の線維肉腫が疑われます。
不活化ワクチンに含まれるアジュバントという物質が一因と考えられています。治療は、外科手術によって切除しますが、再発しやすく、手術を繰り返すこともあります。同じ部位に接種すると発生しやすいため、毎年、接種部位を変えたり、万一肉腫が発生しても外科処置がしやすい部位にするなどの対策がとられています。
猫には猫白血病(FelV)のような危険な感染症があるため、肉腫の発生を恐れるあまり、ワクチン接種を避けるのは得策ではありません。