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信頼される動物病院へ~顧客心理を知ってご家族の立場に立つ(1)~

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信頼される動物病院へ~顧客心理を知ってご家族の立場に立つ(1)~

『ベッツワンプレス 2013春号(Vol.34)』 掲載分

信頼される動物病院へ~顧客心理を知ってご家族の立場に立つ(1)~
株式会社マンズ・リソース 代表取締役 星野 惠子

前号では、信頼される動物病院を目指す上での接遇の重要性をテーマとして取り上げ、大まかに接遇のポイントをご紹介しましたが、今号から引き続き「信頼される動物病院」をテーマに、接遇と心理学を取り上げながら、少し角度を変えてご紹介をしていきたいと思います。
今回のテーマは「顧客心理」です。誰でもが利用者・患者様・顧客になったときに感じる心理と、その活かし方について考えてみたいと思います。自分自身が利用者側になるとよく感じるけれど、自分自身がサービスをする立場になると、目の前のことでいっぱいになって相手の気持ちを想像しにくくなることも多いのではないでしょうか?

いわゆる顧客心理といわれるものには、以下のようなものがあります。

  1. (1) 歓迎期待の心理
  2. (2) 独占したい心理
  3. (3) 公平に扱って欲しい心理
  4. (4) 自尊の心理・恥をかきたくない心理
  5. (5) 真似をしたい心理
  6. (6) 自分本位の心理
  7. (7) 損をしたくない心理

では、順番に考えていきましょう。

(1) 歓迎期待の心理

誰もが、自分という存在を固有の、それも大切な存在として扱って欲しいという、祈りにも似た気持ちを持っています。特に初診で動物病院に訪れるときは、自分と、そして大切な家族としての動物を、スムーズに受け容れてくれるだろうかという不安があります。初めて病院のドアを開けたけれど、誰も声をかけてくれない、あるいは他の患者様と話をしていてこちらを向いてくれないと、自分は歓迎されていないのではないかという気持ちになります。反対に、安心できる挨拶の声がかかるとほっとします。診察室に入るときも同じです。呼び出される時の看護師さんの表情が事務的で、目を見てくれなかったりすると、緊張感が高まります。診察のときも同様です。とても適格で素早い治療をする獣医師の方でも、挨拶や自己紹介、共感的な態度がないと、どう感じるかというと、「私たちは毎日流れていく大勢の患者の中の一人でしかないのだ」という淋しさや不安や遠慮の感情です。

今、挨拶と言いましたが、歓迎期待の心理を満たす大きなチャンスが「挨拶」とも言えます。しかし、歓迎されたと感じ、感動するような挨拶って、どんなものなのでしょうか?まず、1)姿を見つけたら、その瞬間に声をかけていますか?そして 2)目を見ていますか? 3)お名前を呼びかけていますか? 4)距離を縮め、一歩近づくようにしていますか? 5)自分の身体が、相手の方に向いていますか? 6)声のボリュームや明るさは、相手の状況に合っていますか? 7)最後に、その方に合ったプラスαの言葉は加えていますか?また、8)日常から、大切にされていると感じられるような挨拶を送っていますか?

3)や4)については、初診の受付では難しいこともありますが、帰りの際や薬をお渡しする等の際には可能になりますね。

その人が相手をどれくらい大切に思っているかは、ちょっとした挨拶のときの、身体の向きや声のトーンで伝わってしまいます。言葉よりも、声や行動によって、本音が伝わるということです。反対に、ここに気持ちをしっかりこめて挨拶をしていくと、本当に歓迎されていると感じるものです。

最初に述べたように、すぐに声をかけることは、特に初めての方には必要な配慮です。ドアを開ける前、ほんの数秒間でも、頭の中では色々な言葉が行き交うものです。「どんな人がいるのかな?」「緊張するなぁ」「話が合わない雰囲気だったらどうしよう・・」「この子の症状をちゃんと分かってくれるかな」「いい治療をしてもらえるかな」などなど。その数秒間の不安を最初に解消するのが、みなさんの温かい声なのです。

星野先生による動物病院スタッフ様対象の接遇スキルアップセミナー(ペピイ主催)の様子。

(2) 独占したい心理

受付や診察室で、ずっと一人で話す(スタッフを独占したい)人がいると、周りの人は待ちくたびれたり、不公平だと感じたりします。人は、どんなに無口な人でも、必ず自分のことを話したいものなのだそうです。それを知らずにアンバランスが生じると不満が生まれます。みなさんの応対を独り占めしている人がいると、他の人は「私だって聴きたいことがあるのに・・」と不満になります。

まず、話がなかなか終わらない時の特徴を考えると、1)時間をあなたと過ごしたい 2)気になることがあって、その気持ちがおさまらない 3)引き出したい応えがあるが、それが得られない 等があります。

1)については、話を聴くという「時間」そのものが必要になります。私は時々、動物病院のサービスとして「カウンセリング」の時間があれば、と思うことがあります。特に大切な動物を亡くす、あるいはそれを目前にしたご家族には、ただただ話を聴くことで癒される方が多いからです。単身家庭の方が動物と一緒に暮らしていて、亡くした際の悲しみやその時を迎える覚悟に共感できるのは、その子に一番寄り添っていた動物病院のスタッフの方になるのではないかとも思います。これは将来像としての動物病院のサービスとして一考の余地があるのではと思います。

もちろん、現状では切り上げることも必要になりますが、電話なら「○○さん、お話しを伺いたいのですが、今~の状態なので、こちらから一旦おかけ直しして宜しいですか」といって終わることはできるのではないかと思います。もちろん約束は守りますが、1)の場合には、その申し出で気づかれるケースが多いものです。スタッフ側にかけ直すという勇気がないと、かえって言い出せずに、そのまま話が続きます。かけ直す際は、時間を区切ることも一案です。例えば、「時間が15分ほど取れたので、お電話しました」などです。

2)と3)については、聴き方が不足して時間がかかっているケースが考えられます。一番言いたいことが隠れているか、あるいは言っているのに聴けていない場合です。相手の言うことの真意がどこにあるのか、一番たくさん出て来るキーワードは何か等に注目すれば、案外短く済むこともあります。その後に、一番言いたかったことをこちらでフォローする繰り返しや提案があると、真意をくんだ応対となります。

今回は(1)~(2)までをご紹介しましたが、次回は続きをご紹介する予定です。みなさまの職場でも、こんな例、あんな例があるよ、という意見交換をされるだけで、ちょっとした気づきにつながるのではないでしょうか。

今日もたくさんの動物さんたちと、ご家族の方々と、スタッフの仲間の方々と、意義ある時間となりますように。

著者紹介

星野 惠子
星野 惠子
● 株式会社マンズ・リソース 代表取締役
● 元日本航空国際線客室乗務員 ● 元JALアカデミー接遇インストラクター
● 日本ベビーコーチング協会理事 ● KMC認定心理カウンセラー
これまで病院・医療専門学校・福祉施設・動物病院を含め、600団体以上において接遇研修・心理セミナーを担当。
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