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NEEDSを作るために

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NEEDSを作るために

『ベッツワンプレス2010春号(Vol.22)』掲載分

多くの獣医療従事者の労働環境は決して楽な状況ではないと思います。にも拘わらず、飼い主コミュニティの中で「動物病院は高い」と言い続けられてきました。それは動物病院が、自分たちが提供するもの、すなわち獣医療の価値をまだ飼い主に伝え切れていないということの表れではないでしょうか。

来院患者は「今」獲得すればいいか?
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私は最近880円のジーンズを買いました。20回以上洗濯しましたが、なんの問題もありません。授業で使用するスピーカーを学校に買ってもらいました。軽量で、パソコンにUSBケーブルで直接繋ぐことができ、コンセントも不要、とても便利だし、40人の教室で、後方まで音声を届けるには十分な機能を果たします。これも量販店で880円だったそうです。このジーンズもスピーカーも、おそらく数年間使用します。

「よかった」「ラッキー」とまず感じたことは事実です。しかしこれらが私の手元に届くまで、どれだけの人のエネルギーが費やされたかを考えるとその感じ方が刹那的で安易であることに気付きます。材料費、加工費、人件費、流通費、そしてこの商品に投入された技術…それは私が個人で880円を得る労働の内容を思えば、比較にならないほどの人的エネルギーが集積されているようでこれは「全うな値段」ではないのではないかと感じます。

顧客獲得のために、より安く提供するという方法は、一時的には効果があるでしょう。しかし、市場が競争である以上、その方法を採択し続けることで、動物医療業界全体のベクトルをどのような方向へ向けることになるのか…ということはこの経済状態の中で意識しておかねばならないと思います。

飼い主の感じ方

一般的な商品の価格が下がっているこの状況は、動物病院に今後どのような現象をもたらすでしょうか。私は経済の専門家はありませんが、消費者が「低価格」を当然とみなし始め、比較評価で医療を「高い」と感じると大変なことになるのはわかります。そして、それでなくとも「高い」と言われ続けてきた経験から、動物病院が飼い主の勢いに押されてしまいそうになるのも想像できます。

しかし、顧客を獲得するために「値段を下げる」のは最も安易な方法だと思っています。安易な方法を取り続ければ何よりもまず、自分たちをより厳しい労働環境に置くことになるからです。人的エネルギーは、物販品のように、コストを下げるため、より物価の安いところで大量に生産するということはできません。(物販品はその方法でいいという訳ではありません)精度の高い獣医療を提供しようとするなら、まずそれに従事する人達の体力を維持しなくてはなりません。値段を下げれば同じ収益を上げるにはより、長時間働かなくてはならなくなります。疲弊した状態で、人を満足させることはできません。

今後何を選択するか

値段を下げる前にやれることはまだまだあります。自分たちが提供しているものの価値を正当に伝え、今はまだ、伝わっていない所へも届くようなプレゼンをするということです。

「言った」ことが「伝わる」わけではありません。伝えるとは、その内容を反映した言動を飼い主様が自らの意意志で選択し、実行してくれる現象を起こすことです。「説明したのに、実行してくれない困った飼い主さんをどうしたらいいか」という漫然とした質問は本当に多く寄せられますが、「フィラリアの投薬を確実に実行していただけるように説明するにはどうしたらいいか」と具体的に自己の問題意識からされる質問は、ほとんどないように思います。問題は「相手の困った部分にある」というとらえ方をしていると、「自分が伝え方を工夫しよう」という発想にはなかなか至りません。

もしも、今病院にあるカルテのほとんど全ての飼い主様が、毎年必ず狂犬病と、混合ワクチンを打ち、ノミ・ダニ予防薬とフィラリアの薬をドロップすることなく購入するようになったらどうでしょうか?多くの動物達が防げるはずだった苦痛を味わう可能性を免れるだろうし、病院の収益は上がります。さらにもしも、飼い主コミュニティで、今は動物病院に行かず、動物を飼っている人達へ予防の重要性を訴え、来院を促せるような飼い主さんが増えたら、病院はどんなに助かるでしょうか。何よりも、病院に連れて行ってもらえた動物達はどんなに幸せでしょうか。飼い主は、動物病院の伝え方次第で、一人一人が「無償で」他の飼い主へ病院の広報をしてくれるようになる可能性は十分にあると思います。

NEEDSは作れる
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私は今後、動物病院が、動物の飼育管理に正しく、熱心に取り組む飼い主を育てることが最も重要なことだと感じています。なぜならば競合しているのは同業ばかりではないからです。私達飼い主にとって動物を飼うことは「しない」「やめる」という選択肢も必ずあります。全ての業界が全体で、他の全ての業界と競合しているのが現実です。生活中での優先順位を動物から他の物へ変えることができます。動物病院全体の将来を考えると、動物を飼育する人達を減少させないこと、更に増やしていくように働きかける努力をすることに、意味があると思います。

例えばドッグトレーニングは獣医療とは違うという観念はわかります。しかし、ドッグトレーニングに励む飼い主が、基本の予防を怠るということはほとんど考えられません。トレーニングにより生まれた動物との絆の中で、動物と暮らすことの幸せを実感している飼い主の多くは、生涯犬を飼い続け、来院を続ける人達になるでしょう。動物と暮らすことが幸せだと感じた人達は、更に次世代へその幸せを伝えていくでしょう。それは長期にわたって動物病院へのNEEDSを生み出すことにならないでしょうか。

常に俯瞰的に、自分の病院を含めた業界全体を見ることを、意識していただければと願っています。値段を下げて、来院数を増やし、危機を回避するという方法を否定するわけではありません。経営者が常に自分の病院のことを最優先で考えるのは当然のことです。ですが、多くの病院が価格競争を始めれば、将来獣医療界全体にどのような状況が起こるのかを具体的にイメージする必要はあるでしょう。更に「安いから選んで来た飼い主」ばかりが増えれば、どのような状況が起こるか、イメージする必要もあると思います。

動物を飼うということは、命に対して責任を負うということ、しかしその責任を果たすという体験の中にもたらされる幸せは、飼い主の人生を豊かにします。自分たちを取り巻く様々なファクターを鑑み、動物と暮らす人たちがより多くに幸せを感じられるような情報を提供していく、それを伝えるだけのプレゼン能力を高める・・・そのような人材教育が必要ではないでしょうか。そのような能力を持った人達と接することで、動物を飼う人達の心に動物病院へ対するNEEDSが作られるのだと思います。

著者紹介

坂上緑
坂上 緑(さかがみ みどり)
●大阪ペピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師
●動物病院に特化した接客セミナー、講演を全国展開
【出版物】
「飼い主さんとのコミュニケーション講座」
書籍、DVD(インターズー)
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