はじめに
前回は、心エコー検査で右胸壁からの走査により描出できる基本的断面の描出法について解説した。そこで、今回はそれに加えて左胸壁からの描出方法と評価ポイントについて解説する。左胸壁からの走査は、体位変換をしなければならないため、あまり行われていないようであるが、ドプラ法などで心機能を評価する場合に用いられる断面を含むため、描出できるようにしておきたい断面である。
左胸壁からのの描出法
左側からの走査で描出する断面では、心尖部四腔断面と心尖部五腔断面(心尖部四腔断面に左室流出路が加わる)が重要である。その他、心尖部二腔断面、右室流出路断面、左室長軸断面などもあるが、今回は心尖部四腔断面を中心に解説する。
1.心尖部四腔断面
心尖部がエコーウインドウになるため、プローブの走査位置は剣状突起近くの左胸骨縁となる。このため、前回も記載したように剣状突起近くの胸骨縁から頭側よりの領域の毛刈りをしておく必要がある。
正しく心尖部四腔断面を描出するためには、まず心尖部の描出を行う。このためには、剣状突起近くで胸骨に近い肋間にプローブを置く。この時、超音波ビーム面が胸骨に対し垂直になるようにし、プローブマーカーは動物の背側に向ける(図1)。この時のポイントは、右側での走査時よりプローブのコード側を少し持ち上げるように走査することである。通常、剣状突起近くの走査では肝臓が描出される。肝臓が描出されたならば、プローブの向きはそのままで1肋間頭側側に移動する。この手順を繰り返し、心尖部が描出される肋間まで頭側に移動する。心尖部は、小さな円形の像として認識される。この間の注意点は、超音波ビーム面を故意に頭側側に向けないことである。心尖部が描出されたならば、肋間の移動はせず超音波ビーム面だけを頭側に向けるようにする(図2)。この時、プローブを極端に頭側に向けるためブローブを持つ人差し指をしっかり胸壁に付けプローブの移動を防ぐことがポイントである(図3)。この方法を正しく行うと、一般的に画面の扇の頂点に左室心尖部が位置し、左室の下側に左房が観察されるが、画面に向かって左側に描出される右心系は明瞭でないことが多い。そこで、右心系をより明瞭に描出するために、プローブ方向(ビーム方向)を変えずに、プローブマーカーが尾側を向くようにプローブを回転させる(図4)。回転の度合いは症例毎に異なるため、描出されてくる画像を確認しながら調節する(図5)。
正確な心尖部四腔断面を描出するためには、可能な限り極力胸骨近くでプローブ走査をすることである。また、左房がうまく描出されない場合は、プローブが立ちすぎている可能性があるため、プローブを寝かせ気味にして走査することがポイントである。いずれにしても、この走査では無理な手の形になるため、図3のようなプローブの持ち方を参考にするとともに、肘または腕の一部を検査台等に付けるようにすると安定する。
2.心尖部五腔断面
この断面は、心尖部四腔断面のプローブ走査からさらにプローブマーカーを尾側に回転させたものである(図6)。プローブを回転させていくと、心室中隔上部に徐々に左室流出路が描出され、大動脈弁から上行大動脈が確認できるようになる(図7)。
3.心尖部二腔断面
この断面を描出するためには、心尖部四腔断面を描出し、プローブ方向を変えずにプローブマーカーのみが頭側方向へ向くようにプローブを回転させる。プローブを回転させていくと、右心系が描出されなくなり、左室後壁と左室前壁が描出されてくる(図8)。この時、ビーム面はほぼ胸骨と平行になっていることが多い。
4.右室流出路断面
左胸壁から右室流出路断面を描出するためには、心尖部四腔断面を描出するための最初の手順と同じプローブ走査で、心尖部が描出された後も、さらに肋間を頭側に移動しながら肋軟骨接合部近くにプローブ位置を移動する。プローブを頭側に移動していくと大動脈の短軸像が描出されてくる。大動脈の短軸が描出されたならば、ビーム面をやや頭側に向けプローブを回転させながら右室流出路が明瞭に確認できる位置をさがす。右側からのアプローチによる心基部短軸断面肺動脈弁レベルでは、肺動脈弁が時計の3時前後の位置に描出されるが、左側からのアプローチによる右室流出路断面では肺動脈弁が12時前後の位置に描出され、主肺動脈から肺動脈分岐部が観察できる(図9)。
心エコーでまず注目する点
心エコー検査は、目的断面の描出や評価が難しいため敬遠されがちであるとの声を聞くことが多々ある。しかし、正常な各断面をイメージできれば、正常像と異なる部分を探すことができ、そこから診断を進めることが可能である。
一般的に心疾患の進行に伴い、心臓の形態に変化が生じる。そして、その形態変化は病態に応じて異なる。病態生理学的に心臓に加わる負荷は、容量負荷と圧負荷に大別することができる。一般的に、容量負荷が加わると内腔は拡張する。一方、圧負荷が加わると心筋壁は肥厚する。これらの変化は、負荷の強さに依存しており、より大きな負荷が加わればこれらの変化も明瞭となる。また、これらの負荷が心臓のどの部位に加わっているかで、形態変化を起こす部位も異なる。また、病態によっては容量負荷と圧負荷の両方が影響している場合もある。
心臓には4つの心腔があるが、心臓に加わる負荷のタイプによりこれらが拡張したり肥大したりする。したがって、心エコー検査ではまずこれら4つの心腔の形態に注目することから始める。
1.右房・左房の拡張に影響する因子
循環血漿量が増加する病態では、心房の容量負荷が増大するため心房拡張が起こる。また、大きな心房中隔の欠損があると左房から右房への短絡により右房は容量負荷を受け拡張する(図10)。このように、心房に容量負荷が加わる病態では心房の拡張が起こる。
僧帽弁狭窄や三尖弁狭窄では、心房から心室への流入が障害される。また、心室肥大などにより心室の拡張障害が生じると、同様に心房から心室へ血液が流れにくくなる。これらの病態は、心房にとっては圧負荷の増大となり心房は拡張する。心房はもともと心室に比較し心房壁が薄いため、肥大所見よりも拡張所見が明瞭となる。
僧帽弁逆流や三尖弁逆流では、心房には容量負荷と圧負荷が加わるため、同様に心房の拡張が起こる(図11)。また、心房細動のような心房筋の統一的な収縮運動が消失した病態でも、心房収縮によるポンプ機能が低下するため心房拡張が生じる。
左房および右房とも、容量負荷、圧負荷および心房収縮の低下により拡張をきたす。このため、心房拡張のみを評価してもその要因を鑑別することができない。そこで、心房拡張が認められたならば、その原因を確認するために可能性のある要因を想定し、心室および各弁の形態や動きを評価していく。
2.左室腔の大きさと形
心房と同様に左室も容量負荷、圧負荷およびその両方の負荷が加わると、負荷の強さに応じて左室は拡張や肥大といった形態変化を生じる。
僧帽弁逆流では、逆流に伴う容量負荷により左室は拡張する。また、心室中隔欠損症や動脈管開存症など左-右短絡を生じる先天性心疾患でも、肺動脈に流れ込んだ大量の血液が左房から左室に戻ってくるため左室の拡張が起こる。心エコーでは、左室壁の厚さに比較し相対的に左室内腔が大きく観察され、拡張期に心室中隔が右室側に膨らんで観察される(図12)。そして、重度になると左室は球形を呈するようになる。
一方、大動脈狭窄症や高血圧症などにより左室に圧負荷が加わると、左室壁や心室中隔は肥大する。肥大の程度は、圧負荷の程度に依存する。圧負荷が軽度であれば、左室肥大も軽度である。心エコーでは、左室壁厚に比較し相対的に内腔が狭く観察される(図13)。ただし、脱水や出血などのため循環血漿量が減少している症例や重度の右心不全や肺高血圧症のため右室の拍出量が低下している症例では、左室への血液灌流量の低下のため拡張期に左室が十分に膨らまないため、一見左室肥大にみえることがあるため注意する(偽肥大)。
また、大動脈狭窄と大動脈弁閉鎖不全が合併している症例のように、圧負荷および容量負荷とも増大している場合は、負荷の強さに応じて肥大と拡張の両方が生じ、特に左室肥大が不明瞭となることがある。
3.右室腔の大きさと形
三尖弁逆流や心房中隔欠損では、容量負荷の強さに応じて右室拡張が認められる。正常な動物では、左室短軸像で左室を観察すると、拡張末期および収縮末期とも正円形を呈する(図14)。右室の容量負荷に伴う拡張が進行すると、拡張末期の左室短軸像を観察すると、心室中隔の平坦化が認められるようになる。この心室中隔の平坦化は、心室中隔に付着する右室壁が拡張期により外側に膨らみ心室中隔を牽引するためである。一方、収縮期には、左室圧が右室圧より高いため、心室中隔は右室側に押し戻され正常と同じ正円形を呈する(図15)。
肺動脈狭窄や肺高血圧症では、右室は圧負荷のため肥大する。右室肥大(右室圧の上昇)が進行した症例では、左室短軸断面で観察すると拡張末期および収縮末期とも心室中隔は平坦化している(図16)。これは、心室中隔が左室圧と右室圧との圧バランスの取れた位置に移動するためである。また、三尖弁逆流と肺高血圧症を合併した症例や心房中隔欠損に伴い肺高血圧症を発症した症例では、容量負荷と圧負荷のため右室拡張と右室肥大を生じる。この時、右室拡張が顕著であると右室肥大を見逃してしまうことがある。したがって、右室拡張がみられる場合は、必ず左室短軸像で心室中隔の動きを確認することが重要である。
最後に
心エコー検査では、心疾患にともなう心臓形態の変化を見極めることが、最も重要と考える。そして、形態変化からその心臓にどのような負荷が加わっているかを考え、それをもとに心臓の構造的変化や血流情報の検討を行い、その原因を明らかにしていく。容量負荷や圧負荷による形態変化は、負荷が強い場合は明瞭に観察されるが、負荷が弱い場合には明らかな変化が認められないことが多い。したがって、単一断面のみで判断せず、必ず複数断面で評価し総合的に判断する必要がある。また、わずかな形態変化を見逃さないためには、正常な心臓の超音波像をイメージするとともに、聴診を中心とした身体検査所見、胸部X線所見や心電図所見などを参考にしながら心エコー検査を進める必要がある。